1曲目は Kenny Wheeler のオリジナル Ana。いかにも Wheeler らしい、非常に抒情的な旋律と和声進行を持つ佳曲で、ほぼ同時期に録音された彼自身のリーダー・アルバム THE WIDOW IN THE WINDOW (ECM 1417) でもクィンテット編成で演奏されています。しかし演奏の出来は絶対にこの BCJO ヴァージョンの方が良いと私は思います。まあ、この辺りは聴く人によって好みが分かれるところでしょうけれど。
一種荘厳な響きをもつ主題の旋律が提示された後、Ed Thigpen のドラムスに導かれて、Henning Berg のトロンボーン・ソロが始まりますが、最初のうちバッキングはドラムだけ。ほどなくバンド全体が加わってきて、「レミッラーーーシーーードーッレーーラミーー」(ただし移動ド表記)てな感じのリフレインを…
1回目 「レ」
2回目 「レミッ」
3回目 「レミッラーーー」
4回目 「レミッラーーーシーーー」
…と、少しずつ小出しにしながら、都合16回繰り返します。このベタではあるけれど、とってもかっこいいバッキングの上で繰り広げられるトロンボーンのソロが実にヨイですね。
トロンボーンのソロが終わると、リズムがエイトビート(ふう)に変わり、ここから Thomas Heberer のトランペット・ソロ。これもまた実によく歌っています。その後、日本が世界に誇る高瀬アキ女史(BCJOの総帥 Alexander Von Schlippenbach のご夫人)のつつましやかだけれど美しいピアノ・ソロを経て、バンド全体のアンサンブルがしばらく続いたあと、つかの間リズムが解体します。その間 E.L. Petrowsky の激情のバリトン・サックスが咆哮し、新しいリズムパターンが提示されてフォービートが刻まれ始めると、Gerd Dudek のテナー・サックス、続いて Paul van Kemenade のアルト・サックスが、フリジアン・モードと思しきスケール上で非常にエモーショナルなソロを展開。この両者のサックス・ソロが終わると、一瞬の沈黙の後に、再び主題の旋律が(少しばかりの変奏も交えて―この箇所がまた実にヨイんだ)格調高く歌い上げられ、やがて22分40秒に及ぶ長尺の演奏が静かに締めくくられます。
なんと素晴しい!
2曲目の Salz と3曲目の Reef und Kneebus では、Ana とはうって変わって非常に実験的な演奏が聴かれます。Salz ではミディアム・テンポのフォービートのリズムと、それよりもはるかに遅いテンポのツービートが、両者まったく無関係に同時進行で奏され、その上で Misha Mengelberg のピアノと Willem Breuker のバス・クラリネットが、ほぼフリーインプロヴィゼイションのノリで好き放題に音を撒き散らします。しかし、デタラメに音を出しているようでありながら、どう聴いてもジャズになっているんだから不思議で仕方ありません。19分29秒の Reef und Kneebus は、演奏が始まって12分55秒経って初めてジャズらしいリズムと和声が登場するのですが、それまではひたすら実験的な現代音楽風の演奏が展開されます。部分的にはフリーインプロヴィゼイションが用いられていますが、アンサンブルはかなりの部分が譜面であらかじめ用意されているものと思われます。まさしくコンテンポラリー(現代の)ジャズの名に相応しい、マカ不思議ではあるけれど実に魅力的な演奏。しかもとってもユーモラス。ユーモアと先鋭性と耽美的な抒情性が絶妙のバランスで混在しています。傑作ですよ。