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独特な解釈をしたメサイアの演奏だが、非常に威厳があり、素晴らしい判断力と発想力で演奏をしている。演奏するアトランタ交響楽団と室内コーラスは伝統的なモダン演奏をする楽団。
本来、聞きなれている演奏であれば、シンフォニアの冒頭の付点音符の演奏はフランス序曲風に付点音符を長くし、短縮された8分音符が続くということはもう普遍である。こういったバロック独特の演奏法はずっと18世紀から19世紀を通し、続いている。（このような楽譜の表記はモーツアルトの時代の頃まで不完全である）
この常識をまるで見逃したかのように、ロバート・ショーはオリジナルの楽譜に示された通りの長さで演奏する。このように濃厚な音色に重々しいリズムをとったかと思うと、直後のフーガではピリオド演奏にも負けないほどクリアに対位法のラインを構成するという、現代演奏の色んなエレメントが散りばめられた仕上がりをしている。基本的な演奏法も、タイトにシェープされたすっきりとした演奏である。ピリオド楽団が良く陥りがちな断片的な演奏とは真逆で、一貫した奏法で一定の綺麗な構築を仕上げる。
緩楽章では遅めのテンポでしっかりとメロディーを歌わせ、ハーモニーニ重要さを与え、急楽章では軽やかで機敏に、クリアにしかし方向性とエネルギーを集中させた最後の構築をもたせる。ビブラートを効かせた演奏だが、活発かつ美しい、現代の足りないものをしっかりと満たしてくれる、音楽とは我々を取り組む周りのもの全てが含まれてようやく文学から放たれ人の心に浸透するのであろうか。ピリオド演奏は、人々の美に対する気持ちの高揚や、知的欲求に頼らざるを得ない。意図的か偶発的かは別とし、ショーの演奏はピリオド演奏の足りないもの対して反発し、チャレンジしていると言っても過言ではないだろう。
ピリオド奏者たちは真のバロックの美を求め旅立ち、技術的、歴史的、数学的、学術的に、そしてあるごく一部の者たちは美学的な完全を手に入れ、申し分のない演奏の数々を生み出してきているが、ピリオド演奏者の発生というのはそもそもその完全を手にする為だったにも関わらず、むしろ可能性ばかり増え続け、結果現代は世界中に無数のピリオド演奏楽団が現れ、ほぼ全てのもの達が競争するかのように同じピリオドの楽曲を「オリジナル演奏」とし、売り出している。「完全」な「ただ一つのオリジナル」を生み出すどころか、「オリジナル」演奏のメサイアは増える一方である。そして今は「オリジナルは在り得ない」と割り切り、オリジナルのアイデアに基いた新しい演奏だというピリオド演奏が増えてきた。しかしそれはあまりに無責任ではないか。
革新的なピリオドブームによりクラシック音楽のマーケットの活性化は成功し、色々な楽しみ方が出来てきているのは確かだ。しかし、このような不完全な演奏がどんどんＣＤとしてリリースされ、それによりクラシック音楽の品格どころか真髄が曲がってきてしまう危険性があるのではないか。気付いてみれば、ピリオド楽団によるメサイアの演奏は、実はどれも類似してきている傾向にある。彼らの当初の目的はマンネリを一掃するということだったはずが！。
一つの演奏に、ピリオドブームに囚われず、伝統的モダン奏法で一つの演奏に集中し、それを大切に最高の演奏にしようとしているショーの姿勢がどれだけ輝いていることであろう。それ故個性的かつ野心的でありながら、現代を総括するような演奏が可能になったのであろう。素晴らしい演奏ですから、どなたでも聞いてみてください。音楽のあるべき姿がここにはあります。
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