個人的に、今こそ振り返りたいアルバムです。タイトルに掲げた通り、90年代の楽観をありったけ凝縮したような作品だったと思います。
勿論、その線では小沢健二の『LIFE』が金字塔として屹立していますが、彼の天才性や芸術家肌に比べると、カジくんはもっと庶民的な趣味人の印象がありました。ギター・ポップが好きで仕方ない、誰よりも甘いラヴ・ソングを創りたい…そんな一途なまでのフェティシズムが良い意味で彼の「手癖」となり、このもはや金太郎飴状態の佳曲群を量産するに至ったのではないでしょうか。彼が溜め込んできたであろう確信が終始爆発し、完璧なまでに首尾一貫したムードが生まれています。
当時は今より災害も格段に少なかった上にネットも携帯も未発達で、現在の社会に巣食うヘイトや格差、「リア充」的な優越感・劣等感の二択に追い込む承認主義などもまだ蔓延していませんでした。今だと、ここまで楽観的な作品はやはり受け入れられないかもしれません。端的に、皆余裕がないので。
カジくんの魔法は次作『Tea』で半減し(それでも十分に傑作ですが)、以降は良きポップ職人としての信頼を糧としたマイペースな活動に移行していきました。上記したように芸術家というよりは非常に職人気質の人だと感じるので頷ける成り行きですが、オザケンも復帰した事ですし、カジくんにも今の暗い日本にもう一度ポップの魔法をかけて欲しいところです。ベタですが、アイドルの楽曲プロデュースとか向いてると思うんですけどね。「ひたすら可愛い曲を書く人」って席が空いてると思うので。