イギリスのゴシックメタル・バンド、Anathemaが1996年に出した3rdアルバムです。
本作はデス要素をほぼ完全に払拭。ヴォーカルも自然なクリーントーン。たまに荒々しさも覗かせますが、あくまで一般的な範疇です。そしてAnathemaの強みは70年代プログレを思わせるドラマ性。その繊細でドラマティックな世界はますます深みを増し、それでいて曲によってはある種のキャッチーさもある。前作から1年という短いスパンですが、よくここまで思い切った方向転換をしたものです。前作同様本作も、90年代ゴシックメタルの名盤です。
#1 "Sentient" はアトモスフェリックなシンセで幕を開け、哀しみを背負ったピアノとギターがイン。澄んだ高音を伸びやかに響かせるギターが美しい。この曲はインストで、アルバム全体のオープニングといった位置づけです。
1曲目の終わりから自然に繋がる#2 "Angelica" は悲哀に満ちたバラード。メインテーマのメロディも判り易くドラマティック。曲が良すぎるあまり、逆に歌メロが平坦かなとも思いますがこの1~2曲目の流れは神懸っています。
#3 "The Beloved" は軽快なミドルチューン。リフも切れが良く、ヴォーカルも適度に情熱的で、構成的にも要点がまとまっている。この数年後にヨーロッパのメタルシーンを席巻する「一般人でも聴けそうなキャッチーなゴシックメタル」の先駆けともいえる曲です。ドラムが躍動的でいいですね。
#9 "Far Away" は女性ヴォーカルが参加。タイトル歌い上げ系のサビが判りやすくてキャッチーなバラード。中盤でテンポチェンジもあり、バッキングのアルペジオ等々がいい仕事をしており、キャッチーな中にも潤いとドラマがあります。
明確な輪郭で訴えかける哀しみのメロディと、つかみどころのない神秘性とを併せ持った作品。バンドとしての進歩。そしてゴシックメタルというジャンルそのものの可能性をさらに一歩推し進めた名盤です。