ジャケットにミュージシャンの名前が堂々と記載されている通り、Kenny Wheelerが、Michael Brecker(T・Sax)、John Taylor(Pf)、Dave Holland(B)、Jack DeJohnette(Dr)という錚々たるメンバーを招き、1983年5月にニューヨークで録音した「Double, Double You」が、2008年の40周年に続き、ECMレーベル設立50周年を記念した新たなTOUCHSTONESシリーズの1枚として再発されました。
Kenny Wheeler(1930年~2014年)は、カナダに生まれイギリスを中心に活躍したトランペット、フリューゲルホルン奏者。
多くのリーダー作、共演作がありますが、特にECMには優れたアルバムを残しており、この「Double, Double You」は、彼の代表作と呼べる1枚。
1曲目「Foxy Trot」は、Taylorの煌めくようなピアノソロから始まり、モーダルなアンサンブルへと発展していきます。Wheelerのトランペットが鋭角に響き渡り、枠をはみ出さんばかりに自由なTaylorのピアノソロ、Hollandの超絶とも言えるベースソロ、そして豪快なBreckerのサックスソロへと続き、疾風のように駆け抜ける5人の熱演に冒頭から圧倒されます。
2曲目「Ma Bel」は、トランペットとピアノのみの自由度の高い曲で、ほとんどインプロヴィゼーションと思われます。Azimuth やデュオなどで共演を重ねてきたWheelerとTaylorならではの息の合ったプレイを堪能できます。
BreckerとWheelerが交互にメロディを奏で、ゆったりと始まる3曲目「W. W.」。ベース、ドラムスが加わると4ビートに転じ、5人が軽快に飛ばしていきます。鉄壁のメンバーに支えられ、Wheelerが気持ち良さそうにソロを披露すれば、DeJohnetteのドラムスに煽られたようにBreckerも負けじと力強いブロウを繰り広げます。
「Three For D'reen / Blue For Lou / Mark Time」の3曲が組曲風に演奏される4曲目は、LPレコードではB面全部を占める大作。Breckerのテナーサックスが夜の雰囲気を演出し、Wheelerのフリューゲルホルンがその響きにからんでいきます。詩的な美しさを湛えたTaylorのピアノソロが長く奏でられた後に、WheelerとBreckerが夜空に向かってメロディを解き放っていく。そして、思索的なHollandのベースソロが一定のリズムを刻み始めると、Breckerのスピーディーなサックスソロが登場。DeJohnetteは、ここぞとばかりダイナミックに全体を鼓舞し、更に激しいドラムソロに突入。この辺りが4曲目のハイライトと言えそうです。その後、5人が一丸となった優雅なアンサンブルが奏でられ、23分を超える大曲が幕を閉じます。
全4曲、約49分。曲は全てWheelerのオリジナル。プロデューサーはもちろん、Manfred Eicherです。
この「Double, Double You」は、クールなイメージが強いECMの諸作の中にあって、かなり熱い演奏が繰り広げられる傑作だと思います。