マルティン・オステルタークのチェロ独奏で聴く、フリードリヒ・グルダとアーサー・サリヴァンのチェロ協奏曲。伴奏はクラウス・アルプの指揮する南西ドイツ放送管弦楽団(おそらくバーデン=バーデン&フライブルクの南西ドイツ放送交響楽団)である。
グルダの作品は、彼の世代としては精一杯のクロスオーヴァー的作品。チョイ悪親父を気取ったり、牧歌的な風景の中でのんびりしたり、深く考えすぎてドツボにはまったり、遊園地で馬鹿っぽくはしゃいでみたりと、音楽から放出される雰囲気が目まぐるしく変わる。超絶技巧を駆使した、チェロ奏者にとってはとても難儀な作品だが、それ以上に、その変転する雰囲気に相応しい所作まで要求されるわけだから、並大抵のチェロ奏者であれば弾くリスクが大きすぎて腰が引けてしまうだろう。実際、この曲を献呈されたハインリヒ・シフが作曲者の指揮でこの曲を録音した演奏を聴けば、その大変さが際立つだろう。
オステルタークの独奏は、シフよりも周到に準備し、正攻法でこの曲を弾き切った快演である。第一楽章のレチタティーフ的な楽句ももたつくことなく、緻密にバンドと呼応している。オステルタークの独奏は獅子奮迅ではあるが、勝ち目のある戦いだと思わせる安心感があって素晴らしい。また、そんなチェロにあの手この手のちょっかいを出す伴奏も、どんな局面でも絶妙な間合いで入ってきて、チェロに遠慮することなく、互角のやり取りを展開している。アルプの指揮は作曲者自身のタクトよりも的確。シフ&グルダの演奏は、この曲の悪戯的側面を知る資料として、そしてこのオステルターク&アルプの演奏は、この曲の高度に完成された演奏の見本として、この曲を愛する人の重要なアイテムとなるだろう。
サリヴァンの作品のほうも、この曲の録音が枯渇状態にある昨今では、貴重な演奏であろう。メロディ・メーカーとしてのサリヴァンの才覚が良く感知でき、コンパクトにまとまった佳作である。ただ、カップリングのグルダの曲の面白さと比べると、こちらは真面目な作品。インパクトをグルダに食われて、続けて聴くと、その魅力が少しも伝わってこない。演奏がしっかりしているだけに、カップリングで割を食っていると言わざるを得ない。