ピンクフロイド。その最初期、グループを率いるリーダーというか、実質上の「コンセプト・メーカー」としてのシド・バレット。
フロイドは、その当時、先鋭的で実験的な音楽性(「サイケデリック・ロック」と呼ばれた)を持ったユニットでありながら、ヒットチャートにも截然と乗ってしまう驚異的なアクロバットをやってのけた。
シドは、そのバンドにおいて、メロディー・メーカー、作詞家、ギタリスト、否、そうした役割とかレッテルを超えた、芸術性の高さを備えた「詩人」であり、音楽性のクォリティも群を抜いて高い、稀代の「アーティスト」であったと思う。
そして、それ以上に、思春期の私にとっては思い入れ深いカリスマ的存在だった。
私が初めてフロイドの音楽に触れたのは、彼らの最高傑作と言われる“The Dark Side Of The Moon” 邦題「狂気」)だった ・・・直訳すれば「月の裏側」である。
月面の裏側は地上からはまったく見えない不可視の領域であり、ともすれば、表側でさえ、「月蝕」という現象によって、一時的に見えなくなってしまう・・・。
その作品は、これを人間の精神(心)を表す「メタファー」として、実に巧みに用いている。
また、月は“luna”とも言うが、“lunatic” は「気が狂った人間」を意味する・・・。
この「狂気」というアルバム、すでにシドは精神を病み、脱退した後の作品である。
当時、「プログレッシブ・ロック」という言葉が、彼らを含む一群のグループに対して用いられはじめていた。クラッシックやジャズなど、ジャンルにとらわれない曲調や、コンセプト・アルバムと呼ばれるような実験性、芸術性に富んだ作品構成、シンセサイザーやメロトロンと言った電子楽器の多用などなど、その目新しさにすぐ飛びついた。
この「狂気」という作品。分けても、終盤の“Brain Damage”(邦題「狂人は心に」)から“Eclipse”(邦題「狂気日食」)にいたる一連の詞を耳にした時、ぶっ飛んだのを覚えている。
「狂気」というものは、実はすぐ身近にあり、知らず知らずのうちに入り込んできて、
ふと気がつくと、自分の中まで侵されている。
目に見える日常など、実はもろいもので、
いつ、そうした非日常的な「狂気」に侵食され、崩壊するやもしれない
・・・そういうものなのだ。
――― というような内容である。
たかだか6分あまりの曲に散りばめられた言葉の圧倒的なインパクトに、それこそ脳天をぶちのめされ、立ち直れないような「ブレイン・ダメージ」をまともに受けた。
この「狂気」というアルバムは、おそらく、その「狂気」の世界に足を踏み入れてしまったシド・バレットという存在がなかったら、世に現れていなかったろうと思う。
そして、次作の “Wish You Were Hereh”(邦題「炎〜あなたがここにいてほしい」)は、直接的に彼を意識し、彼へのオマージュとして作られた。
同アルバムに収録された表題曲 “Wish You Were Here”(「あなたがここにいてほしい」)と “Shine On You Crazy Diamond”(「狂ったダイアモンド」)は、まさにシドその人を称える賛美する「ラブ・ソング」のようだ。
ドラッグの過剰摂取とライブ・ツアーで疲弊し、精神に異常を来たしたシドは失踪の末、69年、正式にグループを脱退している。
その後、サイケデリックでアバンギャルドな作品「帽子が笑う・・・不気味に」「その名はバレット」の2枚をリリースする(本アルバムはその編集版)が、再び心を病んで隠遁生活に入る。
端的に言えば、それはシドの脆弱さと優しさ、繊細さ、そして、天才と呼ばれる人たちに顕著に見られる、ずば抜けた創造性ゆえに日常性や通俗的な感性からかけはなれ、時に、世俗と相容れず、世俗からスピンアウトしてしまう ―― そういった傾向性があったということだろう。
天才ゆえの悲劇、不幸と言えるだろう。
20代で燃え尽き、廃人のようにその後の余生を送った「狂ったダイアモンド」
冒頭で「私自身の『レゾン・デートル』のようなものが、また一つ『灰』になったような思い」と書いた。
しかし、これは訂正しておこう。「真正の『ダイアモンド』になったような」 と。
「狂ったダイアモンド」に愛を込めて。
Opel
仕様 | 価格 | 新品 | 中古品 |
CD, リミックス含む, インポート, 2016/11/25
"もう一度試してください。" | インポート, リミックス含む | ¥2,134 | ¥1,852 |
CD, インポート, 1990/10/25
"もう一度試してください。" | インポート |
—
| — | ¥270 |
CD, CD, インポート, 2010/10/11
"もう一度試してください。" | CD, インポート |
—
| — | — |
CD, インポート, リミックス含む, 2010/10/11
"もう一度試してください。" | インポート, リミックス含む |
—
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曲目リスト
1 | Opel |
2 | Clowns & Jugglers |
3 | Rats |
4 | Golden Hair (Instrumental) |
5 | Dolly Rocker |
6 | Word Song |
7 | Wined And Dined |
8 | Swan Lee (Silas Lang) |
9 | Birdie Hop |
10 | Let's Split |
11 | Lanky (Part One) |
12 | Wouldn't You Miss Me (Dark Globe) |
13 | Milky Way |
14 | Golden Hair (Instrumental) |
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16 | It Is Obvious (Take 3) |
17 | It Is Obvious (Take 5) |
18 | Clowns & Jugglers (Take 1) |
19 | Late Night (Take 2) |
20 | Effervescing Elephant (Take 2) |
登録情報
- メーカーにより製造中止になりました : いいえ
- 製品サイズ : 30 x 1 x 30 cm; 92.99 g
- メーカー : EMI
- EAN : 0724382890829
- 製造元リファレンス : 724382890829
- 時間 : 1 時間 5 分
- レーベル : EMI
- ASIN : B000024KBF
- ディスク枚数 : 1
- Amazon 売れ筋ランキング: - 190,963位ミュージック (ミュージックの売れ筋ランキングを見る)
- - 3,826位ヘヴィーメタル
- - 36,480位ロック (ミュージック)
- - 48,473位輸入盤
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2014年3月9日に日本でレビュー済み
2007年12月9日に日本でレビュー済み
最初の頃の特別な光を放つPink Floyd(勿論、その後のPink Floydも素晴らしいけれど)を作り上げた人。Crazy Diamondのイメージがつきまとう人。オンガクから離れて穏やかに生活する彼をそれでも追いかけ続ける人は多かった。ぼんやりと歩く姿が時々タブロイドに掲載されたりもした。そしてとても静かに幕を引いた。
彼がかつての仲間やSoftmachineやそういう人たちのオーバーダブが少ないこのアルバムを、(恐らく)ボクは好き。これはまぁオリジナルアルバムじゃなかもしれないけど。Opel、静かに淡々と進行する。ダイレクトなギターと歌。それだけ。小節数も言葉の譜割りも訥々としたうつろう心のままという感じ。Take9とかかれているけれど、Take9まで重ねる中で毎回全く異なった光景を広げてきたんだろう。ワンコード毎に長いストロークが続く間奏の乾いた空気は例えば、(分からないけれど)ランボウが言葉を捨てて砂漠の商人として身を埋めて歩く姿を連想する。どうしてもそれを連想してしまう。ランボウが言葉を捨てた事とこの人がギターを手にしなくなった事の背景は全く違う(だろう)。でも両者のイメージがとても重なる事がある。Opelはそういう歌だ。
彼がかつての仲間やSoftmachineやそういう人たちのオーバーダブが少ないこのアルバムを、(恐らく)ボクは好き。これはまぁオリジナルアルバムじゃなかもしれないけど。Opel、静かに淡々と進行する。ダイレクトなギターと歌。それだけ。小節数も言葉の譜割りも訥々としたうつろう心のままという感じ。Take9とかかれているけれど、Take9まで重ねる中で毎回全く異なった光景を広げてきたんだろう。ワンコード毎に長いストロークが続く間奏の乾いた空気は例えば、(分からないけれど)ランボウが言葉を捨てて砂漠の商人として身を埋めて歩く姿を連想する。どうしてもそれを連想してしまう。ランボウが言葉を捨てた事とこの人がギターを手にしなくなった事の背景は全く違う(だろう)。でも両者のイメージがとても重なる事がある。Opelはそういう歌だ。
2005年1月23日に日本でレビュー済み
これを単なるコレクター向けのアルバムと思って聴いた私は涙が溢れてきました。ビートルズのサージェントペパーと並ぶ「夜明けの口笛ふき」を発表したころからドラッグのオーバードーピングの為にピンクフロイドで最も美貌の青年が次第に精神を病んでいきやがてかつて旧友ロジャーウォーターズからも匙を投げられたシドの孤独な終焉を描いたはずのアルバムだからです。ソロ2作がほとんど後からソフトマシーンやデビットギルモアの演奏をオーバダビングしかろうじて音楽を保っているものの。この作品はそれを排除している為、彼の聞こえる生の音をつたえてくれる。ジャケットもかつて面影もなく最近フランスで撮影された精神の爆発のような写真に近づいている。フロイドの現在のところの最新アルバムの最後にシドの作品を収録するほどやはり”狂ったダイアモンド”は今も彼は超えれない壁なのだと思います
2017年6月13日に日本でレビュー済み
プログレッシヴ・ロックの怪物的バンドの一つ、ピンク・フロイド出発時点の才気煥発たるフロントマン、ルックス面でもリック・ライトと二枚看板だったのに、精神的な病いと重い薬物中毒ですぐ病院に収容されてしまったシド・バレットのアウト・テイク&レア・トラック集。
オリジナルは2枚のソロから20年近く経った1988年の14曲入りアナログとCD、カセットで、これは1993年のボーナス・トラック6曲を追加したUK盤をベースにした何度目かのリイシュー。
多くがギター一本の弾き語りなので(2、8、11、15、18、19等を除く)、さだまさしさんのファンの方々には適しているような・・・ワケはないか。
シド脱退後にバンドを主導したロジャー・ウォーターズの重厚かつ繊細、ドラマティックなサウンドを期待されては困るのだが、シドが深く関わった唯一と言っていい1stアルバム『夜明けの口笛吹き』が好きな方は気に入るかも。
真面目な人なら「鼻唄カマしてんじゃねえぞ」とか「バカなこと止めろ」と怒りたくなる変てこなものもあるが、何気ないようでいて、よく聴き込めば、シドでなければ決して書けない個性的なポップ・センス溢れるナンバーのオン・パレードで、やはりこの人は稀代のメロディ・メイカーだったのではないだろうかと、つい思ってしまう。
とにかく、荒削りなのに洗練されていて、そして、意外と明るい曲調のものも少なくはないのだ。
気がつくのが遅過ぎたが、元ソフト・ボーイズの才人ロビン・ヒッチコックのソロ3枚目「I Often Dream Of Trains」(いいぜ、良心的なレーベルMidnight Musicから)は、シド・バレットのメロディ創りにかなり影響を受けている。
オリジナルは2枚のソロから20年近く経った1988年の14曲入りアナログとCD、カセットで、これは1993年のボーナス・トラック6曲を追加したUK盤をベースにした何度目かのリイシュー。
多くがギター一本の弾き語りなので(2、8、11、15、18、19等を除く)、さだまさしさんのファンの方々には適しているような・・・ワケはないか。
シド脱退後にバンドを主導したロジャー・ウォーターズの重厚かつ繊細、ドラマティックなサウンドを期待されては困るのだが、シドが深く関わった唯一と言っていい1stアルバム『夜明けの口笛吹き』が好きな方は気に入るかも。
真面目な人なら「鼻唄カマしてんじゃねえぞ」とか「バカなこと止めろ」と怒りたくなる変てこなものもあるが、何気ないようでいて、よく聴き込めば、シドでなければ決して書けない個性的なポップ・センス溢れるナンバーのオン・パレードで、やはりこの人は稀代のメロディ・メイカーだったのではないだろうかと、つい思ってしまう。
とにかく、荒削りなのに洗練されていて、そして、意外と明るい曲調のものも少なくはないのだ。
気がつくのが遅過ぎたが、元ソフト・ボーイズの才人ロビン・ヒッチコックのソロ3枚目「I Often Dream Of Trains」(いいぜ、良心的なレーベルMidnight Musicから)は、シド・バレットのメロディ創りにかなり影響を受けている。
2011年1月30日に日本でレビュー済み
怪しさがポップ感に溶け込んで爆発してた
ピンクフロイド時とは全く違う。
どうしたら正常だったはずの人がこうなってしまうのか?
聴くにはある程度覚悟がないと駄目なはず。
それを言う人が誰もいなさそうなので、あえてこう書かせてもらいます。
ピンクフロイド時とは全く違う。
どうしたら正常だったはずの人がこうなってしまうのか?
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それを言う人が誰もいなさそうなので、あえてこう書かせてもらいます。
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Luis
5つ星のうち5.0
The one & only
2024年2月25日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
An essential album for those interested in the works of Pink Floyd's original frontman,
Joan
5つ星のうち5.0
Excelente calidad de grabacion
2024年2月3日にスペインでレビュー済みAmazonで購入
Un resumen unico de un genio.
G Crow
5つ星のうち5.0
A ONE OFF MUSIC LEGEND
2023年6月16日に英国でレビュー済みAmazonで購入
SHAME HIS MUSIC AND HE CAME TO A TRAGIC END NOT EVERYBODY ENJOYED HIS MUSIC I ENJOYED IT VERY MUCH WELL WORTH LISTENING TO
Cortés
5つ星のうち5.0
Mythique
2021年4月15日にフランスでレビュー済みAmazonで購入
Un classique indispensable pour les fans de cet incroyable génie.