これまでと一風変わったオープニングを飾るナンバー"Heard Ya Missed Me, Well I'm Back"。レゲエのリズムとラテンパーカッションを駆使したメロディアスで開放的なそのサウンド。僕はこの曲が大好きだ。Slyほど、リズム、楽器の音色、アレンジ、メロディと全てにこだわったサウンドプロダクションをするアーティストは本当にいないのではないか?と思う。
と、敢えて肯定的に始めてみたけれど、このアルバムが発売された76年には、Parliamentの"Mothership Connection"、EW&Fの"Spirits"、そしてStevie Wonderの"Songs In The Key Of Life"というブラックミュージック史上に残る名作達が発表されている。それを考えながら聴くともう既に時代を牽引する力は無い事に気付かされる。とあるCDのライナーに書かれていたが、「Slyがちょっと麻薬を我慢すれば、ParliamentやEW&Fにデカイ面される事もなかったのに」という言葉が載っていたが、(デカイ面は流石に言葉のアヤだけれど・・・)想像してみると確かにそんな風に僕も思ったりする。それだけに彼の転落は何処かとても寂しく痛々しいものに思う。
前作"High On You"にも言える事だけれど、決して収録されている楽曲は悪くはない。逆にその発想の面白さはSlyにしか持てないものだと思う。ただ、何か圧倒的にリスナーを吸引する魔力が消えてしまったのだと思う。冒頭にも述べたようにタイトルソング"Heard Ya Missed Me, Well I'm Back"は大好きなナンバーだし、こんな楽曲はなかなか出会えないと思う。アルバム通して様々な楽器の音色が緻密なアンサンブルを組み、多彩で華やかなアレンジが見事になされている。それにも関わらず、ポッカリと穴の空いたような空虚さに包まれてしまう。何かが大きなものが抜けていて、それがこのアルバムを物足りないものにしている。そんな気がする。
このアルバムでSly & The Family Stoneというバンドのオリジナルメンバーが、Sly StoneとCynthia Robinsonだけになってしまう。様々な物がSly Stoneの周りから遠ざかっていく。アルバムタイトル"Heard Ya Missed Me, Well I'm Back"は「帰って来たよ!俺がいなくて寂しかっただろ?」という感じなのだけれど、もう既に彼は必要とされていなかったのかもしれない・・・。