今日の時点から、このゼムのセカンド・アルバムを聴くとすると、通常は、ふたつの理由からでしょう。ひとつは、ゼムが、アイルランド出身の奇才、『アストラル・ウィークス』や『ムーン・ダンス』などで有名なヴァン・モリソンを擁しているからという理由。もうひとつは、BECK『オディレイ』(1996年)が、トラック1「デビルズ・ヘアカット」でこのアルバムのトラック9(ジェームス・ブラウンのカヴァー)と6を、そしてトラック7「ジャック・アス」でこのアルバムのトラック10(ボブ・ディランのカヴァー)をサンプリングしているからという理由。
どちらの理由もなしに聴くとすると、モリソン作のナンバーが5曲、プロデューサー、スコットのナンバーが5曲、アフロ‐アメリカンのミュージックのカヴァー3曲など、サウンドにはまとまりがないので、かなりつらいものがあります。さらに、このアルバムに関しては、モリソンのソングライティングは、『アストラル・ウィークス』や『ムーン・ダンス』はもちろん、ゼムのファースト・アルバムと比べても精彩を欠いているとの定評もあります。
とはいえ、目の前にある楽曲を無節操に演奏しているという意味ではチープなB級かもしれないけど、日本のGSにも通じる60年代の雰囲気、つまり生バンドのビートが並んでいる有機的な雰囲気は、テクノ・ポップを経た現代から見ると、非常に新鮮です。
さらに、モリソンのヴォーカルがすばらしく、すべての曲を繊細かつ大胆に歌い上げてしまいます。ですから、あまりにアーティスティックで渋すぎる『アストラル・ウィークス』『ムーン・ダンス』のモリソンよりも、こっちのモリソンを聴くほうが素朴に楽しめるかもしれません。