ジョイスさん(なんとなく『さん』付けしてしまう)の代表作『フェミニーナそして水と光』、それぞれ'80年、’81年発表アルバムの合体CDです.『フェミニーナ』のエッジの効いたカッティングに伸びやかな歌声、『ミステリオス』のゆったりした美しいメロディ、『クラレアーナ』では娘さんであるクララとアナのコーラスと笑い声がなんとも可愛い・・と、全編、愛に満ち、透明感溢れるピュアな作品.とても洗練されてますが都会的な感じではなく、森を吹き抜ける風、木漏れ日、そよぐ草花、小鳥の囀り、小川のせせらぎ、といったナチュラルな情景が目に浮かびます.歌詞を読むと女性の情念的な内容もあるのですが、ジトっとした湿度の重さはなく、どこまでも爽やか.昔、私が本作を初めて聴いた時、実はもひとつピンと来なかったのですが(『サンバ・ジ・ガーゴ』の鮮烈なカッコよさにはノックアウトされましたが)、単に当時聴いていたブラジル音楽のフォーマットに収まらない本作の突出した独創性に私がついていけてなかっただけでしたね.凄いのは、これだけ先鋭的な音楽を生み出しているのにジョイスさんに根を詰めた感じが全くなく、ごく自然体で音楽を楽しんでいるところ.ギタリストとしての腕前も相当なものです.ラストの『甘い調べ/水と光』の、まるで森の朝もやに包まれて静かに胎内回帰していくような深い余韻が心地よいです.
(2023年10月11日追記)ギターマガジン2001年9月号に、ちょうどブルーノートでの公演で来日されていたジョイスさんへのインタビューがありました.読んでてすぐわかりますが、とても頭脳明晰な方です.ご自身をあえてカテゴライズするなら?という質問に対し、「・・場所によって呼ばれ方も様々だけど、どう呼ばれようとかまわない.私の音楽であることに変わりはないし、それはこれからも変わらない」「一般的にボサノヴァ・アーティストはオリジナル・スタイルに固執しているけど、私は今だにそれを発展させようとしているのよ.常に新しいやり方を模索してるの」といった発言がいかにも彼女らしくて素敵です.尚、この公演ではジョアン・ドナートさんと次女のアナ・マルティンスさんもボーカリストとして参加されてました(長女のクララさんも歌手ですね).