ジャズ・フュージョンの開幕を告げた『ビッチェズ・ブリュー』録音・発売直前の、ヨーロッパ・ツアーでのマイルス・コンボ実況録音盤。チック・コリアは電気ピアノだが、デイブ・ホランドはウッドベース、ほかもオーソドックスな従来の楽器で、フリーの波をかぶったメインストリーム・ジャズの行き着いた形といった形態と演奏内容。マイルスもアグレッシブだが、ホランドのベースが際立って雄弁で、とくに最初の2曲など、のちのサークルや鳩首会議での演奏をすでに彷彿とさせる。いっぽう3曲目のマイルストーンズでは4ビートの伝統スタイルでペースをキープ、ジャズの王道コンボであることを体感させてくれる。
60年代のマイルスのヨーロッパ・ツアーは、覚醒したコルトレーンを引き連れた60年ツアーにはじまり、フリーをスタイリッシュに咀嚼した67年ツアー、そして電気楽器を取り入れたこの69年ツアーと、ジャズを大きく変えた熱い60年代の潮流に随伴しながら、オーソドックスなクインテットの形で主流派のスタイルを維持しながら新たな表現を模索した軌跡として、今聞いてもまったく古びず感動的です。