ドイツのピアニスト、エリク・テン=ベルクがラファエル・クーベリックの指揮するバイエルン放送交響楽団と共演した、フルトヴェングラーの交響的協奏曲。この曲は、エトヴィン・フィッシャーの独奏と作曲者自身の指揮するベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とで初演&録音しており、CDにも復刻されていたが、1939年の録音と言うことで、随分音が悪い。晩年のフルトヴェングラーは、テン=ベルクとこの曲を共演することを切望していたが、作曲者自身の逝去により果たせなくなったため、フルトヴェングラーを敬愛するクーベリックの手でこの録音が行われていたのであった。
第二次世界大戦目前の重苦しい雰囲気を反映し、ペシミスティックな音楽に仕上がっている分、軽薄なピアノ独奏では太刀打ちできない音楽ではあるが、テン=ベルクの剛毅な弾きっぷりは、この曲を再現するのに最適な人選である。一音一音杭を打ち込むような、しかし一切暴走しないピアノは、先輩格のハンス・リヒター=ハーザーとがっぷり四つに組めそうなくらいの重厚さを持っている。テクニック面でも初演者のエトヴィン・フィッシャーに勝る。指揮をするクーベリックも、第二次世界大戦の経験だけでなく、「プラハの春」のクーデターで国外に出ているので、フルトヴェングラーが曲に込めた悲痛な叫びを自らに取り込んでいるかのような没入を示す。ピアノもオーケストラも渾身の演奏であろう。