上原ひろみのようなテクニック偏重のプレイヤーが現れると、「テクニックしかない」とか「内容がない」と批判されるのが常だ。そのような批判が間違っているとは思わないが、人間技とは思えない超絶技巧を思う存分浴びてみたいという欲求があるのも事実だ。この欲求に応えた作品がジャズの歴史のなかには少なくない。直ちに思い浮かぶのはAl di Meola, John McLaughlin, Paco de LuciaによるPassion Grace & FireやJohn McLaughlin, Jaco Pastorius, Tony WilliamsのTrio of Doomだろう。このような先例がある以上、Live at Montreuxでデビューしたゴンサロ・ルバルカバが圧倒的なパワーとテクニックでボクらをノックアウトして以来、このような企画が持ち上がるのは時間の問題だったに違いない。ゴンサロ・ルバルカバにベースのブライアン・ブロンバーク、ドラムのデニス・チェンバース、いずれ劣らぬ超絶技巧の持ち主を集めて夢のトリオを結成する、とは平凡な思いつきと言えばそれまでだが、それでも一度は聴いておきたい組み合わせだ。だが、超絶技巧のスーパー・ピアノ・トリオを期待すると裏切られる。おそらくレコード会社の思惑やファンの勝手な期待など、とうに見透かされており、モントルーでボクらに先制パンチを食らわしたWoodyn‘ Youでさえ、ゴンサロのパワーを見せつけるというよりは3人のインタープレイの場となっている。そしてアルバムの最後を飾る「黒いオルフェ」はピアノの打鍵数を極端に減らしたバラード・プレイだ。ビル・エヴァンスさえ凌駕するほどの繊細さと言っても過言ではないと思う。