まず音で感じた。殿下が外界に戻ってきた、と。 前作『イマンシペイション』とは異なる開放感。Tangerine色の光を感じた。内容を知ろうと歌詞リーフを広げた。 歌詞の裏はカラーポスターになっている。燦々と陽が降り注ぐプールに浸かった殿下。その鋭い眼と削げた頬に、たじろいだ。穏やかな表情だった前作ピクチャーブックとは別人。この3年間に、何が? いろいろあったらしい。無垢な羊は亡き子の投影か。さらに、マイテ姫の浮気。結婚前の「I hate you」を思い出す。しかし、今回は責め方が違う。「君が信用できない。謝れよ。僕は正しかったのに」「I need to innocent. Hear me!」逃げ道なし。彼のblueな心情にはもちろん同情するが、こういう男の妻は息が詰まるわなと姫にも同情する。そして、愛の理想郷は崩壊したのだろう。 しかし、殿下は正直な上に、克己心の強い男だ。「Everyday Is A Winding Road」と悟り、未練を抱きながらも前進してゆく。偉いっ。 良き音楽仲間の力も得て、Tangerineな気持ちを取り戻しつつある。本作を聴くと、そんな殿下が目に浮かぶ。 Tangerineな曲とblueな曲。反対色が織りなす、美しい音楽のタペストリー。 特にラストの「Wherever U Go, Whatever U Do」は味わい深い。自らを励まし、スピーカーの向こう側にいる友達を励ます人生の応援歌だ。殿下がんばれよー、我々もがんばるからさー。そうエールを返したくなる曲だ。 余談だが、本作には2曲の隠しトラックがある。一つは「The Greatest Romance Ever Sold」の別アレンジ。もう一つは『Musicology』収録「Life 'O' The Party」の元になった曲。天才アレンジャー・プリンスを実感するこれらも必聴だ。