2000年に公開された同名映画のサウンドトラック。映画はU2と付き合いの長いヴィム・ヴェンダース監督作品。原案(脚本)と製作そして音楽にボノが深く関わっており、このサントラもU2のサイド・プロジェクト的色合いが濃くなっている。
U2のファンならば、本作を1995年の
「オリジナル・サウンドトラック1」
(パッセンジャーズ名義によるU2とイーノの共作)の延長線と捉えるかもしれない。
確かに類似点はあるが、あちらが当時バンドが指向したエレクトロニカ路線を推し進めた実験作だったのに対し、こちらは同じ2000年発表の
「オール・ザット・ユー・キャント・リーヴ・ビハインド」
にごく近い音世界を持っている(ただしアヴレッシヴさは皆無だが)。
といっても、曲目リストで分かるようにU2(とボノ)が関わる楽曲は一部のみ。他はブライアン・ブレイドやビル・フリゼールらによるMDH(ミリオンダラー・ホテル)バンドの演奏が主体で、これに多彩なゲストが加わる。主演女優のミラ・ジョヴォヴィッチもヴォーカルを披露している。
そうした楽曲も含め、アルバム全体に不思議な統一感があるのは、プロデュースに名を連ねるイーノ、そしてダニエル・ラノワの音楽性が色濃いためだろう。ジョン・ハッセルなどの参加ミュージシャンも、主にこの二人の人脈で集められている。
私見を記せば、ラノワが参加したU2作品には独特の空間感があり、それは彼の心象風景ともいうべきものだと思う。本作でもラノワのソロ作に近似した部分は多く、特にM5は、この3年後に発表の名作
「シャイン」
に再録される。本作の音が気に入った方には、そちらも併せてお勧めしたい。
本作は全体に初期U2のファンにも受け入れられやすい、モノトーンの空虚さが魅力。メッセージ色や攻撃性に欠けるため、ロック系の楽曲にはやや物足りない部分もあるが、それ以外のけだるいジャズに心安らぐ人は多いはず。U2のオリジナルアルバムにはない、落ち着いた大人の音楽作品として魅力ある作品である。