ジャズピアニスト「ビル・エヴァンス」の最高傑作は?と問われて、多分俗にリバーサイド4部作と言われる傑作群、「ポートレイト・イン・ジャズ」「エクスポラレーションズ」「サンデイ・アット・ヴィレッジ・バンガード」「ワルツ・フォー・デビー」を揚げる人が多いかもしれない。
たしかに歴史に残る傑作は4部作であり、もっと新しい時代のモントリューのライブやまだまだ多くの傑作が残っています。
エヴァンスのピアノは独特の個性でもちろん素晴らしい演奏ですが、エヴァンスの演奏はインタープレーと言ってピアノ、ベース、ドラムスの会話というのか相互バランスを楽しむ演奏でもあります。
リバーサイド4部作が高く評価されるのは、エヴァンスのピアノのオリジナリティももちろんですがベースのスコット・ラ・ファロの存在が何よりも大きい。
いや大きすぎるくらい、です。
エヴァンスとの4部作をリバーサイトレコードに残した後、スコットはあっさり交通事故でこの世を去ってしまいました。
天才ベーシストを失い失意のどん底にあったエヴァンスは演奏意欲を失い、自己を麻薬で慰める日々。
そんな彼の演奏意欲を久しく刺激したのが、このアルバムでベースを担当しているチェック・イスラエルスです。
スコットほど派手なバカテクを聞かせる人ではありませんが超理論派であり、高いレベルのテクニックを持ったベーシストです。
チャックのベースも又実にエヴァンスのピアノと、良いバランスを聞かせます。
スコットとの演奏が「動」であれば、チャックとの演奏は「静」。
どちらも捨てがたい演奏で、むしらエヴァンスのピアノをじっくり鑑賞するにはチャックこそ最適なベーシストかと思います。
このコンビでもう一枚「ムーン・ビームス」がありますが、こちらもより「静」なエヴァンスが聞けるアルバム。
だかやはり「静」でありながら、適当に刺激的ででアグレッシブなこの「ハウ・マイ・ハート・シングス」こそ、バランスの良いピアノトリオという意味では一つの時代におけるエヴァンスの最高傑作かもしれないと考えています。
ジャズファンの間でも他のアルバムに比べて地味な演奏かもしれませんが、ビル・エヴァンスの本質をとらえた見事な作品だと思います。