N.Y.の超絶アヴァンギャルドベーシスト、マーク・ドレッサーとグランジロックドラマー、ジム・ブラックと組んだピアノトリオとしての2作目。藤井のリーダー名義作としては、通算9作目で2000年に発表。また本作原盤はドイツのEnjaだが、日本でも邦題「どんひゃら」としてメジャーレーベルからの藤井2作目の発表作となった。
最初に嫌みな事を書くと、本作はあなたの日頃の疲れを癒すヒーリングミュージックの代わりにはならない。また、盛り上がらない会話を埋めるムードミュージックを必要とする倦怠期のカップルにも向かない。
ここにあるのは、ピアノ、ベース、ドラムの3者が対等の立場で、おのが技量と創造力の限りを尽くし、更なる未踏の高見を目指す果敢なる表現者の姿である。
「最初の音を鳴らす。次にくる音は正解としてひとつだけ存在する。もちろん、これは万人にとっての正解ではなく私にとっての正解だ。」(CD解説より)藤井のこの言葉ほど彼女の音楽姿勢を表すものは無いだろう。彼女にとっての正解となる音は、ジャズ的な身振りやリスナーの存在(こび)に惑わされず、いわんやコマーシャリズムに流されることがない。この潔癖さは、汗が飛び散るホットな演奏でも、一音一音を紡ぐような静謐なそれでも変わることがない彼女の大きな魅力だ。
なお本作はデジタルマスタリングをセイゲン・オノが行い、全ての音が生々しくクリアーに捉えられている。児玉紀芳氏の解説も親身にして的確で、3人のミュージシャンのバイオもついている。その意味では日本盤をお奨めする。