1996年発表の6作目のアルバム。パンクファン、メロディーフリークの視点からレビュー。
ジャンル・音楽的特徴:
このアルバムは前作までのアルバムから音楽的な特徴が大きく変化している。前作までのアルバムは、荒々しさが目立つサウンドが特徴的なガレージパンクに類する作品であった。(ガレージパンクとは、現在のところ明確に定義されているジャンルではなく、音楽の特徴から便宜上用いられることが多い様である。TOKYO FM出版の「PUNK ROCK STANDARDS」という本で、パンクの1ジャンルとしてガレージパンクが紹介されている。代表的なバンドはThe Rip OffsやThe Hivesなど。ちなみにThe Rip OffsにはMr T Experienceのメンバーが参加している。音楽的な特徴としては、他のパンクのジャンルと異なり、ロック性やロックンロール性が強いこと(特にThe Hivesで顕著)や、ガレージで演奏したような荒々しいサウンドが挙げられる。また、ルーツ的な面から、ガレージロックの中からパンクの要素を見出したサウンドや、ガレージロックのパンク的なアプローチ・アレンジとして理解されることもあるようだ。)
伴奏面のみをみるとロック性もパンク性もともに強くどちらかが目立つ感じではないのだが、かなりドライでクールな印象を受ける。とりわけ、メロディーの良さがガレージパンク的な荒々しい要素を目立たなくしているように思える。しかしそのメロディーは、ポップな印象ではなくドライな印象を与えており、このあたりがこのアルバムの独特の特徴といえる。
あえてジャンル分けをするなら、ガレージパンクの延長線上にある音楽としてガレージパンクに分類されることになると思うが、このアルバムの独自性は、ガレージパンクもしくはロックンロール性を排除しないパンクの新たな可能性を示していると思う。
音楽性:
メロディーの良さ、ソングライティングの独創性が印象強い作品である。インパクトがある作品というよりは、聴きこんで良さが分かるタイプの作品。作品全体を通して受ける印象は、シンプルでドライなパンクロックサウンド、スタッカートのきいた跳ねるようなメロディーライン、ロックなギターリフなど多様である。トラック1は、曲の最初はRamonesのようなシンプルなギターリフで始まるが、メロディーはそのリフにロックンロール調のものをのせ、曲の印象を複雑にする。トラック2は、ポップなメロディーにやや変則的なコード進行を用いた曲。この曲はメロディック・パンクのような印象にやや哀愁がただよう複雑なもの。トラック11はロック、パンク、ガレージ感、メロディーのバランスが独創的な曲。
サウンド・曲構成に一貫性はあるが、1曲1曲はかなり多様な音楽性を持っている作品となっている。
総評:
とにかくVo&GのDr Frankのソングライティングが素晴らしい。メロディー、サウンドともに独創性が強く、曲としては聴きやすいがポップな印象ではなくかなりドライな印象を与えると思う。良いメロディーとはポップさや美しさだけではない。彼は、この作品でドライでグルーヴ感のある良いメロディーを完成させている。
評価は、パンクファン・メロディーフリークの視点からも文句なしの5つ星。