ジョン・カリシとセシル・テーラーの音楽が、いい意味で聴きやすく洗練され、
スイングする、隠れた名盤。
これはギル・エヴァンスのアルバムということになっているが、彼は「コンダクター」
としてクレジットされているだけで、ピアノすら弾いていない。
内容としては、2つのバンド(ジョン・カリシ・オーケストラとセシル・テイラー7重奏団)
の演奏が、それぞれ3曲ずつ収録され、交互に並べられている。
これだけ聞くと、実態がないような中途半端な印象にも思えるが(実際そういうふうに
受け取られている)、聴いてみると興味深く、聴きやすく、面白い。
語弊がある言い方かもしれないが、イージー・リスニング風フリージャズ。
録音は1961年なので、NYのジャズシーンがオーネット・コールマンの襲来を受け、
ジャズ全体にフリーの嵐が吹いている。このアルバムもその気配が濃厚。ただしそこは
ギル・エヴァンス、楽しげに振りこなしている。
最初がジョン・カリシの「Moon Taj」。聴いてみると、これが面白い。ギルは、自分の
バンドではなく、それを指揮しているだけだが、ギル・エヴァンス色が浮き立っている。
刑事が出てくるサスペンス物(コロンボや古畑任三郎)の劇伴音楽のよう。ここで聞かれる
ピアノのタッチや雰囲気は、ギル・エバンス自身よりギル・エヴァンス的かもしれない。
M2「Pots」は、セシル・テイラー7重奏団。フリーの気配が濃厚で、ピアノはかなり
アヴァンギャルド。だがギルの采配で、適度なエッジ感で聴きやすくなっている。
M3・カリシ「Angkor Wat」。アジアな亜熱帯風の雰囲気を感じさせる爽やかな印象の曲。
M4・セシル「Bulbs」。ホーン陣が活躍する曲。セシルの音楽というと彼のピアノがメインだが、
ここではそうではない彼の音楽の側面が見られる。
M5・カリシ「Barry's Tune」。4分に満たない曲だが、スイング感が抜群で爽快。
M6・セシルの「Mixed」。これはミディアムテンポで始まるが途中からテンポアップし、
バンドが総出で突進する。セシル・テイラーの音楽につきものの鋭角的なきつさがなく、
ギル・エヴァンス流の洗練とスイング感がある。