Manfred Mannのオリジナル・メンバーでサックス、フルート、ギターを兼任していたMike Vickers(1940~ )が1965年秋にアレンジャーとして独立することになり、Henry Lowther(tp.1941~ )、Lyn Dobson(ts.&fl.1939~ )、Jack Bruce(bs.&vo.1943~2014)の3名が新しくメンバーとして加入した。いずれも当時のロンドンの若手ジャズ・ミュージシャンだった。(Tom McGuinessの懐古談による。)McGuinessはベースから本来のギターにコンバートされた。リーダーのMannは、ジャズ的なインストルメンタル・グループとしての方向性を強化していこうと考えたのだろう。Manfred Mann(org.&p.1940~ )、Tom McGuiness(g.1941~ )その後キーボード奏者兼シンガーに転身するMike Hugg(ds.&vibe.1942~ )の以上6名により演奏された作品が中でも傑出している。"I Got You Babe","Spirit Feel","(I can't get no) Satisfaction","My Generation","Still I'm Sad","Tengo Tango"の6曲がそれにあたる。EP盤で発表された4曲のアレンジは誰がしたのだろうか、とてもしゃれている。Jack Bruceは1966年録音のMike Taylor(p.1938~1969)のリーダー作"The Trio"でも、Ron Rubin(b.1933~ )とともに見事なコントラバスによる演奏を残しているが、ここでも”Spirit Feel"を筆頭にジャズ・イディオムにのっとった、エレクトリック・ベースを聴かせる。Mike Huggのジャズドラミングも優れており、後年なぜドラムスの演奏を放棄したのか分からない。また二人のホーン奏者の演奏のスキルはこの時期のロックバンドのそれとしては最高レベルといってよい。
ブルース曲が多いこともありHenry LowtherのトランペットはLee Morganを彷彿とさせ、Lyn Dobsonのテナー・サクソフォンはJohn Coltraneのシーツ・オブ・サウンドを踏襲している。前任者のMike Vickersのアルトサックスは、決して下手ではなくJulian Cannonball Adderley的であるが、古臭く聞こえどうしても分が悪い。Harry Shapiro著のJack Bruceの自伝"Jack Bruce Composing Himself"によると、Manfred Mann在籍中、Henry Lowther,Lyn Dobson,Jack Bruceの3名は、Jon Hiseman(ds.1944~2018)を加えた"Group Sounds Four"として1966年6月19日放送のBBCのジャズ番組"The Jazz Scene"に出演している。Henry LowtherとLyn Dobsonは、1964年頃から、双頭バンドを組んでいたようである。CanadaのMichael Kingが監修したcompilationCD"Trad Dads,Dirty Boppers and Free Fusioneers British Jazz 1961-1975"の2曲目に1964年録音のHenry Lowther-Lyn Dobson Quintetの”Scarpo"が収録されている。既に堂々たるハードバップの演奏である。リズムセクションはTony Hymas(p.1943~ ),Harry Miller (b.1941~1983),Louis Henry(ds.)からなる。その後もKen McCarthyないしはTony Hymasがピアニストとして加わるときは、"Group Sounds Five"を名乗り、ベーシストとしてRon Rubin(1933~ )かHarry Millerが参加することもあった。録音が残されているのならCD化を願いたいものです。なお同書によると彼らがManfred Mannのライブに出演したのは1966年6月26日が最後だが、Jack Bruceは既に6月18日から並行してThe Creamのリハーサルをしているので、実に多忙であったことが分かる。ともあれイギリスの1960年代後半のジャズ・ロックならまず、この作品を聴くべしといいたい。
なお、Paul Jones(vo.1942~ )をフィーチャーした、Tom McGuinessの作品"L.S.D."はmoneyのことで、ドラッグではありません。