個性派シンガーソングライター、コシミハル(越美晴)の91年作。細野晴臣プロデュース下で培ったテクノポップサウンドを基盤にしつつ、日本歌曲・クラシック・シャンソンなどの要素をとり入れた楽曲。歌詞はかなり独特、シュールで耽美的・倒錯的、禁断の愛を匂わせるようなところもある。ただ、狂気・倒錯性をわかりやすい形で外に向けて発露するのではない。内に秘め、上品で優雅な語り口に包むことで、かえってより深い頽廃美・禁断の味わい・文学性が生まれている。
「クレプシドラ・サナトリウム」はメルヘンかつダークな曲調。ドイツ語で儚げに歌う。クラシカルなピアノは螺旋階段を駆け下りていくよう。孤独な少女、彼女を過剰に愛し閉じ込める父。娘と父、2人だけの、ゾッとするほど静かな世界。魂に群がる蛾。蜥蜴色の仮面。書斎の机に隠したピストル。幻想的・耽美的な世界に怖いくらいに引き込まれる。「正式な愛人」は大正浪漫な雰囲気が漂う。郷愁を誘うアコーディオン。澄んだ歌声に陶酔。「ジルとジャンヌの対話」は小人が行進し始めそうなインスト。「父とピストル」はドイツ語で歌う。優しく高貴だが何とも不道徳な紳士。コケティッシュな少女。背徳的な戯れ。演劇的に語りかけるような歌声。サビは天上を舞うかのよう。「サビーヌの孤獨」と「水盤の縁のニンフ」は水底や揺れる水面を思わすインスト。「召使い」は端整なピアノがユーモラスに歩き回るインスト。「心臓の上」は掴み所がないが、不思議な美・すがすがしさ。「リリカちゃん電話」はお人形リリカがパパのことを語るのだが…とても病的で不気味。「おませな情事」はリズム音が鞭のよう。夜毎、華奢な美少年がお気に入りの人形を相手に自涜にふける。その少女人形の視点から、彼を弄ぶように観察する、何とも背徳的かつ甘美な曲。「ピコロモンドで待ってて」はポップで可憐。