89年作。個性派シンガーソングライター、コシミハル(越美晴)が、クラシックの名曲をカバーしたアルバム。Executive Producerは細野晴臣。カバー曲集だし、歌詞のある歌が無いインスト主体の曲が多いので、コシミハルの作品の中では聞くのが後回しになっても仕方ない作品かな?と思い、あえて星3つの評価にしたが、内容自体はステキ。インスト曲が多いとは言ったものの、厳密にはインストとも言い切れない曖昧さ。歌詞のある歌らしい歌が少ないだけで、彼女の歌声自体は「ラララ…」とか「ダバダバ…」とか何らかの形で、どの曲にも入っている。ボーカルを歌ではなく楽器の1つのように扱う。「クラシックの曲を、ニューウェーヴ・テクノポップ等を通ってきた世代の彼女ならではの感性で調理した…」とか言うべきなのかもしれないが、どうもそういう言い方が似合わない自然さというか、普通さというか。むしろ彼女のルーツはクラシックの側にこそあるのでしょう。 「Pizzicato-Polka」はヨハン・シュトラウスII世とヨーゼフ・シュトラウスの兄弟の合作。原曲の愛らしさそのままに、ピチカート音に彼女の高音の声を重ね、まるで小鳥のさえずりのような感覚で聞かせる。「Belle Of The Ball」はルロイ・アンダーソン作。ラララ…と、踊るような彼女の歌声が旋律に重なる。様々な鳥の声が入る演出。「Typewriter」もルロイ・アンダーソン作。この曲は後に91年作「父とピストル」収録の「リリカちゃん電話」のバックに使われる。「Plink・Plank・Plunk」もルロイ・アンダーソン作。アコーディオンの音色が印象的。口笛が入ったりもする。「Siciliano」はバッハの(偽作とも言われるが)「フルートとオブリガート・チェンバロのためのソナタ変ホ長調」の第2楽章シチリアーノ。ダバダバ…という歌声をメインにしたアレンジ。この曲も後に「リリカちゃん電話」で使われる。「Funiculi-Funicula」はクラシックとは違うが、有名な曲。軽やか。「Sandmannchen」はブラームスの「子供の民謡」という曲集の中の1曲。癒される。「Passepied」はドビュッシーの「ベルガマスク組曲」の中の1曲。華麗な声の重なり合いを使って表現、時にやや大仰なシンフォニックさに…ある意味、原曲の隠れた魅力や本質に気付かせてくれるような面がある、見事なアレンジだ。「The Little Shepherd」はドビュッシーの「子供の領分」の中の1曲。ピアノに、声、アコーディオン、チェロをそっと寄り添わせたアレンジ。「Ave Maria」はバッハの「平均律クラヴィーア曲集第1巻 第1番ハ長調前奏曲」を使ったグノー版。ピアノ伴奏でしっとり歌う。彼女は85年作「ボーイソプラノ」でシューベルトの「アヴェマリア」もカバーしているので、混同しないよう注意。「Standchen」はシューベルトの歌曲集「白鳥の歌」より。和訳で歌う。オルガンとピアノの重厚かつムーディな演奏が印象的。「Horch! Horch! Die Lerch」もシューベルトの歌曲。ドイツ語で歌う。羽のようにふわりと、空に舞い上がる心地。「When You Wish Upon A Star」はクラシックじゃないが、誰もが知るスタンダードナンバー。シンプル、清らか。