仙台からメジャーデビューしたバンドとしてはあのハウンド・ドッグ以来だったジガーズ・サンが解散してから10年になる。当時の日本の音楽シーンはまだまだジャンルという固定概念が強かったように思うが、現在のようにさまざまなスタイルの音楽が何の垣根もなくメディアに公開されてはいなかったために埋没してしまった惜しいバンドだった。
Voの坂本サトルの明るく且つピュアなキャラクターがそのまま反映された楽曲が多く、彼らの音楽で勇気付けられたり涙したりした人は意外に多かったのではないだろうか。今であればリズムに言葉を乗せる系の音楽(それが本当に「音楽」と言えるかどうかは別にして)で歌の意味を伝える手法がシーンを闊歩しておりそれが受けているが、ジガーズサンの執った手法はオーソドックスなバンドサウンド。ある意味「直球勝負の正攻法」でのメッセージの発信だったため、数多あるJ-POPの枠に一括りされてしまい、その波に飲み込まれてしまったような感じがする。例えばドリカムやELTのような「ユニット」と称される連中とは一線を画す「バンド」としての活動を主眼としていた事で、彼らとすればその豪快なバンドサウンドやバンド・アンサンブルといった部分にも配慮をしていたはずだが、悲しいかなこのジャンルにおけるリスナーは、そこには眼を向けてはいない…というのが実情だ。彼らなりに微妙に手法を変えたりしてさまざまなアプローチを行なったものの、結果的には大きく陽の目を見る事はなかった。
初期の頃はレコード会社の意向もあったのだろう、渡辺洋一のギターが窮屈そうにコンパクトにされてしまっていたが、後半は得意の豪快さが増し「いよいよ本領発揮か」と期待していただけに残念な解散だった。渡辺は日本屈指のギタリストとなる器を有した大物の素材だった事は間違いない。
このアルバムは彼らのベスト盤。活動の軌跡を俯瞰するにはもって来いの1枚だ。坂本サトルのピュアな人間性が伺える楽曲が実に多く、もう少し活動を続けていたらスポットライトが当たる日も来たのではないか…と思わせるほど純粋な曲が多い。
またどうせ解散するのなら、最後に渡辺洋一に音楽的なイニシアチブを執らせてアルバム作りをさせてみたかった。ゴリゴリのロック作品が出来上がった事だろう。