「幻のハックルバック」は、鈴木茂が単身アメリカに渡り、苦労の末に作り上げた傑作アルバム「BAND WAGON(1975年)」の収録曲を、ライブで再現するために結成されたバンド、ハックルバックが、オーディオ・フェアの場で流す目的で、1975年10月にスタジオ録音したそれこそ幻の音源であり、当初は、カセットのみの発売であったことは、皆様ご存知の通りだと思います。
鈴木茂、佐藤博、田中章弘、林敏明というメンバーは、当時としても一流であり、このバンドの活動期間が1年にも満たず、正式なアルバムもリリースされなかったことが悔やまれます。
オリジナル・メンバーでの活動期間が1975年2月から12月なので、この10月のレコーディングの際には、既に解散が決まっていたのかもしれません。
そのせいか、全5曲とも、非常にリラックスしたムードで演奏されており、本場アメリカのミュージシャンと丁丁発止の演奏を繰り広げ、緊張感に満たされた「BAND WAGON」とは、ずいぶん異なった印象を受けます。
今後の互いの目指す方向も別々であったのでしょうか?。タイトな演奏と言うよりセッション風であり、それはインストゥルメンタルの 1曲目「グレート・アメリカン・ファンキー・ガール」、そして16分以上にも及ぶ5曲目「ジャングル・ジャム」に顕著。
「BAND WAGON」の人気曲、「100ワットの恋人」「砂の女」が2曲目、4曲目に収録されているのは嬉しい限りですが、2曲ともAOR的な洗練されたアレンジで演奏されており、ガツンとしたロックを期待したファンは、肩透かしを食らったかもしれません。
しかし、録音から40年以上を経た現在の耳で聴くと、セピア色とでも言えそうなサウンドがすんなりと身体に染み込んできます。和む、とは正にこのこと。
そして、この成熟した演奏を成し得た当時のメンバーの力量に改めて驚かされることに・・・。
キーボードの佐藤博が3曲目「レイン・イン・ザ・シティー」でヴォーカルも担当。また、桑名正博が「砂の女」でコーラスを担当しているのですが、お2人とも2012年10月26日に亡くなられたことを知って、愕然としました。
人々の記憶にいつまでも残り、どこかでフッと浮かび上がってくるような、貴重な音源だと思います。