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' 1.「怪人二十面相」…人間椅子を代表する一曲だが、そのキャリアの中では最も聞きやすい部類だろう。詩は神出鬼没、変幻自在の怪人像と、愛情限りなき江戸川乱歩への奉辞である。「おまえは誰だ」と言いつつも「鏡の中で虚ろに笑う」と言う。さもありなん、怪人は自らのダークサイド・オブ・ザ・ムーンなのであるから。我等皆、自らの狂気の像を追う者なり。
' 2.「みなしごのシャッフル」…和嶋氏の美学の完成形を成す一曲。『黒い日曜日』に見られるような、少年期への追憶、若者の苦悩、淡い慕情といった純文学的表現が見られる。我等が日々考える事を占めるのは、こうした孤独な時間に産み出される思索なのであり、愛だ恋だ、傍にいるだ、三途の川の渡し賃にもならない商業音楽の徒輩には襟を正して聞かせるべき曲である。冒頭から多用されるバスドラのリズムの刻みは、BLACK SABBATH の「RAT SALAD 」(『PALANOID 』収録)のビル・ウオードのプレイを彷彿とさせる。
' 3.「蛭田博士の発明」…深沈とした大都会の片隅に蠢く狂気の科学者像だが、召喚魔術によってアルジェリア砂漠に魔王コロンバインを現出させた20世紀の魔術師アレイスター・クロウリーの姿も浮かぶ。「猫の死骸の築山」からさながら泥田坊の如く腕をもたげ出でる腐肉の魔人を想像すれば、魔人を街に放つ蛭田博士の愉悦に微笑みがこぼれる。「嘘と狂気の化学式」「夜と悪夢の帰納法」の詞は見事。
' 4.「刑務所はいっぱい」…自称極悪人ながら何処となく間抜けで、前時代的なレトリックが可笑しみを誘う。キャッチーなロックチューンながら、完成度は流石の一曲。
' 5.「あしながぐも」…重々しいトニー・アイオミ風のリフに懊悩する精神を蜘蛛に仮託して唄う、極めて人間椅子らしい佳曲。のめり込む程に繰り返し聞けば聞くほど、深い味わいが増す。本曲では閉塞感を謳うが当のアシナガグモは、体も脚も細いが顎は大きく発達し、生態も他のクモの網の枠糸を利用したり、他のクモの巣の隙間を狙って網を張るなど、中々如才無い。水田の害虫の天敵でもある。ついでながら家屋内で見かける大型の蜘蛛は「アシダカグモ」で、全長130ミリに達する日本最大級の蜘蛛であるが、網を張らない徘徊性で、ゴキブリの天敵である益虫である為、駆除してはならない。
' 6.「亜麻色のスカーフ」…「シャナナヘイヘヘイ♪」のコーラスが頭を離れなくなる。リフといい、メロディラインといい、ソロといい、和嶋氏の卓絶した技巧に聞き惚れてしまう。シンプルながら聞き飽きず、鈴木氏のテイスト満載の'Dと好対称を成す。
' 7.「芋虫」…まごうことなき名曲である。和嶋氏による、絶望感に心を引き裂く様なオープニングもソロも素晴らしい。自己嫌悪の閉塞感に苛まれ、手も足も出ない儘に身も心も腐敗して行く悪しざま。江戸川乱歩の『芋虫』、若松孝二監督の映画『キャタピラー』も併せて鑑賞されると良い。
' 8.「名探偵登場」…彼等の抱く迷妄探偵像をユーモラスに唄う。歌詞の「御目見得以上なのだ」は意味不明。
' 9.「屋根裏のねぷた祭り」…屋根裏の一寸法師達が夜な夜な繰り広げる悪夢のねぷた祭り。夜の海鳴りの如く、くどいまでに寄せては返す間の長いヘヴィリフが真骨頂。
' 10.「楽しい夏休み」…まさに狂人の妄想、又は追憶。閉鎖病棟の鉄格子の窓の下で絶叫する「楽しいなあああ夏休みいいい…」の壊れた重症患者の姿が瞼に浮かぶ様である。後藤氏の聞かせる超絶ドラミングが何度聞いても楽しい。
' 11.「地獄風景」…三三七拍子の軽快なリズムに乗せて、血飛沫き、肉裂け、騎馬戦で首級を討ち取られる、げに愉しき運動会。評者は娘の幼稚園の運動会で此の楽曲を口ずさんで競技に臨んだ。個人的な蛇足ながら「奈落のゴールへまっぐら」のフレーズが空耳で「Think nothing of the kind …」に聞こえ、JUDAS PRIEST の「Electric Eye」に頭の中でシンクロしてしまう。
' 12.「大団円」…此の素晴らしいアルバムの掉尾を飾る大曲。田舎芝居の場景を雄大に歌い上げる。楽曲の構成も各氏のプレイも集大成的な輝きを放っている。クライマックスにはBLACK SABBATHの「TOMORROW'S DREAM」(『Black Sabbath Vol,4』所収)を彷彿とさせるが、8分の楽曲の各所にトニー・アイオミのテイストが散りばめられている。
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