the pillowsとは日本のロックバンドである。
と、同時にthe pillowsはボーカル・山中さわおという男の生き様であり、20枚以上出たアルバムは彼の人生の足跡でもあると個人的に思っている。
1997年1月リリース。the pillows、5枚目のオリジナルアルバム『Please Mr.Lostman』
当時の彼らの覚悟が全て音に詰め込まれた、非常に素晴らしいロックアルバムである。
1991年にメジャーデビューをしたthe pillowsだが、それまでは苦難の連続だった。
93年に当時のリーダーが脱退して活動休止(第1期)。94年に活動再開し、売れることを優先した音楽を追求する(第2期)。
ネットも一般的に普及していない90年代はテレビタイアップが全盛で、山中は自身を抑制しつつ、周囲の意見を積極的に取り入れていく。しかし、全くと言っていいほど売れず、5枚目のシングル『Tiny Boat』(96年1月リリース)の不振をきっかけに、山中は己のやりたい音楽を優先することを決意。
山中がやりたかったロックサウンドを主軸とした第3期。その最初のアルバムが『Please Mr.Lostman』である。
制作時こそ周囲の反対があったものの、結果的にアルバムの評判が上々だったこともあり、以降は現在に至るまでシンプルなロックが基本軸となっている。(山中は後年のインタビューで、この辺りの時代を『黄金期』と呼んでいる)
代表曲の1つ「ストレンジ カメレオン」を筆頭に、完成度の高い楽曲がズラリと並んでいる。最初の「STALKER」こそヘビーな音像だが、2曲目の「TRIP DANCER」以降はミディアムテンポの美しいロック曲が続いていく。
個人的にオススメしたいのは、アルバムの半分を占めてしまうが以下の5曲。
「TRIP DANCER」
世界を皮肉りつつ、自分たちの決意を表明したthe pillowsのスタンダードなナンバー。
「ICE PICK」「彼女は今日,」
どちらも後のベスト盤では未収録となったが、とても良い曲。個人的な主観も入るが、このアルバムはロック的な力強さがあると同時に、寂しさ・切なさも大きく同居しているように感じる。
この頃の山中のボーカルは、現在の骨太な感じとは異なり、とても繊細な歌い方だった。本人は「饅頭を詰めた感じの歌い方」と自虐していたが、この時代の声だからこそ引き立つ楽曲は多くあったと思う。
「ストレンジカメレオン」
the pillowsの代表曲の1つ。これが無かったらバンドは空中分解していたかもしれない重要な曲。強烈な疎外感・孤独感のあるシリアスな世界観だが、同時に「それでもいいんだ」という決意も込められた名曲。
Mr.Childrenの桜井和寿はこの楽曲に大きな思い入れがあるようで、2004年にはMr.Childrenでカバーも行った。
「Please Mr.Lostman」
アルバムの表題曲にして、「音楽業界への遺書」とまで言ったバンドの覚悟と決意が伝わってくる楽曲。メジャーからインディーズへの移行も覚悟していたようで、ある種の終わりを感じさせると同時に力強さと美しさも伝わってくる。
15周年の記念ライブではオープニング曲として演奏され、以降のミレニアムライブでも必ず歌われている名曲。