六土開正さんがゲームサウンドを提供したゲームソフトは「大貝獣物語(以下便宜上、1とします)」、「じゅうべいクエスト」など他にもあるとのことですが、サントラまで発売されたのは一部のゲームについてのみのようです。本作CDは六土さんによるサントラとしては初代ファミコンソフトの「貝獣物語」のサントラ(以下前作)に続く作品です(「大貝獣物語(1)のサントラは発売されていないようです」)。
前作では、ゲームハード(初代ファミコン)の問題もあって、曲数およびそのサウンドの質にも大きな制約があったのですが、ハードがスーパーファミコンとなったことでこれらの問題がクリアされたのか、前作でのうっぷんを晴らすかのごとく、曲数(全90曲!) 、使用されている楽器の種類、サウンドの質とも前作のサントラよりも大幅にアップしています。今作では前作と違って、2枚のDiscの全90曲の作曲と編曲の7割以上(66曲)を六土さん自身が行っており、六土さんが本来考えるサウンドも100%まではいかないまでも大分表現できるハードになってきたということでしょうか。ゲームの場面毎の細かい音楽の使い分けも出来るようになった訳です。
さて、CDはオープニングらしからぬ愁いをおびた1.「貝の伝説」から始まりますが、なにか戦うことのむなしさや悲劇の訪れを暗示しているかのような曲です(例の如くゲームはプレイしていませんが…)。2,3はもう一人の編曲者 遠藤 稔 氏(「高校三年生」などの作曲で知られる、遠藤 実 氏とは別人です。この方の詳しいことはよく分かりません)によるサウンドですが、ベースサウンドも交えた落ち着いた曲で、1.の雰囲気をうまく引き継いだいい曲だと思います。 4.以降はゲーム内で使われている様々な曲が続きます。コミカルな曲や、特撮ヒーローを思わせるようなベースサウンドの効いた戦闘曲などもあり、他にも様々な感情や場面を想像させる曲たちが目白押しです。
昔、玉置浩二さんが主演した映画「プルシアンブルーの肖像」のサントラのNo.8「カズミ」でのダイナミックかつ繊細な作曲でも既に証明されていますが、六土さんが単なるベーシストではなく、サウンドクリエーターであることが改めて分かります。安全地帯のサウンドはやはり5人の才能があってのものなのですね。
このCDの曲は前述の如く、全曲が六土さんの作曲で、編曲は六土さんと遠藤さんのお二人によるものですが、ベースサウンドを使っている曲とそうではない曲があります。しかし、このCDのどんな曲であってもやはりベースの音色を探してしまう自分がいるのに気付かされます。そしてそのベースサウンドが聴き取れた時「あ、このパートは六土さんが弾いているのかな」と一人でこっそり至福の思いでニンマリしていました。
しかし、リスナーを心地良く感じさせてくれるのはなにもベースの音色だけではなく、六土さんが作り出す各曲のメロディーラインや世界観そのものが優れていることがより大きな要因です。
Disc2の3.などは遠藤さん編曲によるベースサウンドがない曲ですが、アコギメインの穏やかな優しいメロディーの曲です。六土さんがアコギを弾いているのでしょうか?本当に色々な楽器に精通しておられます。歌唱のエフェクトの代わりに何か歌詞を付けてきちんとした歌唱を入れれば、そのまますぐにでも安全地帯の歌唱曲になりそうです。
このような素晴らしい楽曲群ですが、前作同様にここで一つの問題が…。ブックレットにはBGM programmer、SE programmer、Mastering Engineerの方々の名前はあるのですが、ミュージシャンの方の名前は一切なく、studio名などの記載もありません。ということは、まさかこの作品も全部の音がシンセサイザーなどを使った打ち込みのみによる演奏なのでしょうか…?打ち込みサウンドが全て嫌いだと言っているわけではないのですが、やはり打ち込みだけではなく、人の手で演奏されたサウンドの部分もあってほしいとは思うのです。
その真偽のほどは不明ですが、メロディーライン、アレンジともに優れていることは疑う余地のない所です。ブックレットにバースデイ(ゲーム自体を作る会社)の原 裕朗 氏のこんな文章があります。「~スタッフと一緒になって、手ぶり身ぶり、はては口笛まで吹いて、作曲してくれる六ちゃんに伝えるのです。~六ちゃんの目がキラッと光って、分かった!の合図をかえしてくれるまで、とにかくしゃべりまくります。~」。制作者側の様々な要求に対して、六土さんが大喜利のように次々に素晴らしい答えを返していく光景が目に浮かびます。
このような素晴らしい才能をお持ちの六土さんならば、映画の音楽監督に抜擢されたり、矢萩さんや武沢さんのようにもっと他のアーティストの方に楽曲を提供したりしてもよかったのではないかと思っています。
ところで、来たる2017.4/29のワタユタケ(安全地帯の二人のギタリスト矢萩渉さん、武沢侑昂さんによるユニット)のコンサート後のトークショーに、六土さんも田中裕二さんとともに出演されるとのことですが、今年2017年は安全地帯35周年の記念すべき年でもありますし、そろそろ5人がそろっての活動もまた見てみたいものです。