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![カインド・オブ・ブルー(LP STEREO) [Analog]](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/81bJFHG4xAL._AC_UL165_SR165,165_.jpg)
単なる映画のサントラにしておくにはもったいない、実にカッコいいジャズ・アルバムでもある。１曲目の「危険な関係のブルース（No Problem）：テイク１」から早くもノックアウト。続く同テーマのサンバ・バージョンもボッサ感満点。日本でヒットしたというこの曲はデューク・ジョーダンの作曲だが、映画のクレジットから名前を外され、印税ももらえなかったそうだ。「All compositions by Jacques Marray」というのはウソらしい。音楽業界の魑魅魍魎を感じずにはいられないエピソードですな。
本ＣＤは、ロジェ・ヴァディム監督『危険な関係』（主演：ジェラール・フィリップ、ジャンヌ・モロー／’６０年）のサントラである。映画本編では、セロニアス・モンク・カルテットと、アート・ブレイキー＆ザ・ジャズ・メッセンジャーズの曲が使用されているそうだが、残念ながらオトナの事情とやらでこのサントラ盤にはジャズ・メッセンジャーズの演奏しか収録されていない（ちなみにモンクの方は『Les Liaisons Dangereuses 1960』というＣＤで発売されている）。
片手落ちである一方で、フランスのサックス奏者バルネ・ウィランがジャズ・メッセンジャーズと共演、というレアな演奏が楽しめるゴキゲンな一枚である。
バルネは、ヨーロピアン・ジャズのうるさ方研究家・星野秋男氏をして「天才」「欧州一のハード・バッパー」と言わしめるほどの実力者で、あの有名な『死刑台のエレベーター』のサントラにも参加している。
放浪の無頼派小説家、ブレーズ・サンドラールの後押しでプロデビューしたという話も面白いが、父がアメリカ人だったので、本場アメリカのジャズメンたちに引っ張りだこだったのは、実力もさることながら英語が堪能だった事もあるようだ。
彼の伝説的セッション『バルネ』からわずか３ヶ月後のレコーディングで、弱冠２２歳にしてノリにノッている頃の演奏である。
サスペンスフルでスタイリッシュ、バルネをはじめリー・モーガン、ブレイキーなど各人の熱いソロがたっぷり楽しめる「危険な関係のブルース」はやっぱり名曲だが、一転してロマンティックでムーディーに、バルネがしっとりと歌い上げる３曲目「プレリュード・イン・ブルー」もたまらない。これで２２歳ってんだから、天才ミュージシャンってのは実に早熟ですねぇ。
軽快なスウィング感が楽しい４曲目「ヴァルモンタナ」
あの時代のスノッブな匂いを漂わせた５曲目「ミゲルのパーティー」
バップ感満点の８曲目「ヴィーハウケン・マッド・パッド」など、５種類の曲をバージョン、テイク別で全１０曲収録している。
そもそもバルネがなぜジャズ・メッセンジャーズと共演したかというと、同年（’５９）のニューポート・ジャズ・フェスティバルに出演した後、ごく短い間メッセンジャーズに参加していたそうなのだ。
元々このサントラは、ヨーロッパ・ツアー中のセロニアス・モンクに、パリでレコーディングしてもらう段取りだったのが、公演自体がキャンセルされてしまったので、音楽プロデューサーがＮＹまで飛んでモンクにレコーディングしてもらい、返す刀でメッセンッジャーズにもお願いした、という事らしい。
このサントラは３つのセッションで録音されていて、ひとつはバルネが加わったジャズ・メッセンジャーズによる演奏で、「危険な関係のブルース」「ヴァルモンタナ」「ミゲルのパーティー」「ヴィーハウケン・マッド・パッド」「プレリュード・イン・ブルー：テイク２」。
二つ目はアート・ブレイキー＆バルネ・ウィラン・カルテットで「プレリュード・イン・ブルー：テイク１」。これがデューク・ジョーダンが唯一参加した曲。
三つ目はアート・ブレイキー＆アフロ・キューバン・ボーイズで、これはコンガとボンゴのラテン系ミュージシャン３人が加わり、主題曲のボッサ・バージョン「危険な関係のサンバ」を演奏している。
ちなみに、劇中のパーティーでバルネ、ケニー・ドーハム、デューク・ジョーダン、ケニー・クラークのクインテットが演奏するシーンがあるのだが、そこで流れる音は、このＣＤに収録されているメッセンジャーズによるスタジオ録音で、ドーハムが吹いているトランペットは実際にはリー・モーガン、ジョーダンのピアノはボビー・ティモンズの演奏、同じくクラークのドラムはブレイキーが叩いたもので、バルネだけは本人の演奏なのだそうだ。
この頃のアテレコ撮影は、まだそれほど映像と音のシンクロにこだわってなかったらしく、ドラムはあまりリズムに合っていなかった。というか、ケニー・クラーク・・・たぶん他人の演奏に合わせて叩くこと自体、イヤだったんだろうねぇ（笑）。ドーハムはそれなりにノッてペット吹いてたように見える。人それぞれですね。ちなみにバルネは引きの画であんまり目立ってなかったです。
映画自体は、それほど素晴らしい出来ではないのだが（笑）､音楽はグッド。ＤＶＤ再発してくんねぇかな。
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