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![ベートーヴェン：交響曲第4番 [Import]](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/71R2chE9gHL._AC_UL165_SR165,165_.jpg)
シューベルトの未完成です
クラシック初心者の方は、この曲に、さぞかしロマンチックな印象を持っていることでしょう
残念ながら、その様な方に、この盤はおススメできません
三十年前のことです
当時十代半ばだった私は、小遣いでこの演奏のLP盤を購入した思い出があります
演奏を聴いた少年時代の私はすぐにこう思いました
「こんなの未完成ではない！」
当時の私にとって、クライバーの未完成はあまりにも角のある演奏で、とっつきにくく、感傷的な部分を一切排除した、非情なまでに素っ気ないものに思えたのでした
そのことを友達に伝えるや、彼はこう言いました
「僕の持っているブルーノワルター盤と交換しよう」
彼の申し出にすぐに応じワルターのLPと交換し、演奏を聴きました
「これこそ、真の未完成だ！」
ワルターの豊潤で美しい演奏に感激したのでした
かくしてクライバー盤の未完成は、三十年の長きにわたり私のもとから去ってしまいました
三十年という時間が、私にクライバーの素晴らしさを教えました
カルロスクライバーはベートーヴェンの名盤にみられる様に、完璧な演奏を目指した指揮者です
この場合の完璧さは、例えばショルティの様に「縦のラインを揃える(各楽器の動きがピタリとあっている)」ことに拘った完璧とは、大いに意味が違っています
カルロスクライバーの目指していた完璧さは、簡単に言葉にできる単純なものでは無いようです
高名な父、エーリッヒと常に比較されるプレッシャーの中で、彼なりの西洋音楽の完璧さを徹底的に追求した先に、カルロスクライバーの演奏がある様です
それは芸術家の孤独と引き換えに存在するであろう、至高の完璧でしょう
カルロスクライバーは異様なほどレパートリーが少ないです
ベートーヴェンの中でも特定の曲しか録音を残していません
オペラでも椿姫や、オペレッタでも「こうもり」など、選曲にも独特なクセがあります
父、エーリッヒが比較的豊富なレパートリーを残している事実を鑑みると、なおさらその偏り方に父の影響を感じずにはいられません
少ないレパートリーの中にシューベルトの3と7がある事実に、今更ながら深い意味を感じます
それらの意味を踏まえて聴くクライバーの未完成は、ワルター盤のそれとは違う次元で曲が鳴っているようです
無論、ワルターが悪いというわけではあまりせん
ワルターは偉大なマエストロです
ワルターの偉大な演奏の真逆の地点でクライバーの未完成が鳴っているということなのです
ここにはエレガントかつロマンチックな調べなど、一切存在しません
出だしの低音はロマン派のおどろおどろしさとは無縁で、機械的な印象を受けます
それに第一主題の旋律が乗っかります
ワルターの場合、その旋律を感傷的に鳴らしますが、クライバーは古典派の範疇で遠慮気味に鳴ります
第二主題のチェロも絶対にロマン派の響きではなく、あくまで古典派の調子で響かせます
中間部以降も、この曲をロマン派の交響曲ではなく、古典派の交響曲として響かせます
二楽章に至っては、曲全体を意図的に古典派の音楽だと主張するかのように響かせています
二楽章第二主題の、旋律を奏でる木管楽器と、それを下支えする弦楽器の何たる厳しさ！冷たさ！そして古典的な形式美のすごさ！
何度も登場させて恐縮ですが、ワルターの二楽章第二主題はクライバーとは正反対です
ワルターの第二楽章は夢のような響きに終始します
ワルターは、弦楽器、木管楽器ともに、決して角を立たせることはせず、ロマン派の音楽として曲を鳴らしています
クライバーはこの楽章をあくまで古典派の音楽として捉え、夢のような響きは意図的に排し、例えるならベートーヴェンの第一交響曲の第二楽章のような音楽として響かせます
未完成をロマン派の音楽ではなく古典派の音楽として完璧に鳴らしたクライバーの偉大さに、改めて敬意を覚えます
若いころの未熟を思い出し、なぜか感傷的な気持ちになりました
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