Hector Berlioz(1803~1869)と言うと、「幻想交響曲」ばかり取り上げられて、たしかに良くできているのだけれども、気の毒なような気がする。Berliozが歌曲を書いていたなんて聞くと、「幻想……」の第4、5楽章が蘇ってきてしまい、酷い偏見だな、と改めて感じる。
ここに収録されているのは、彼が20代から40代、どうやらそれ以降は、65歳まで20年ほども生きていたのに、作曲していないようなのだ。一方、50代ではオペラ、宗教曲、合唱曲を書いているので、人間の声に関心がなかった訳ではないようだ。
Berliozは、1803年に、ヨーロッパで初めて鍼を治療に用いたとされる内科医の6人の子どもの一人として生まれた。12歳でピアノを勉強し始めたのだが神童とは言えず、パリに出て医学を学んだ。だがフルート、ギターに関しては巧みな腕前だったようだ。そして他の先輩たちと同じく、音楽の魅力を断ち切れなかったようだ。一面では解剖された人体に不快感を催し、医学に関心を持てなかったと言う。パリ・オペラ座でGluckの歌劇を見て感動し、パリ音楽院に行き、楽譜を読むようになり、果ては作曲までするようになった。そして21歳頃には、両親の期待に反して医学の道を捨ててしまった。まもなく彼は、オフェリア、ジュリエットを演じていたHenrietta Smithsonを見染めるのだ。ところで彼女との結婚は、余り幸福ではなかった、と描かれる場合が多いようだが、BerliozはSmithsonが亡くなるまで再婚しなかった。
Anne Sofie von Otterをはじめとして、Berliozの知られざる魅力を、彼は誰もが知るようにHenrietta Smithsonに夢中になった男なのだ、伝えてくれるすぐれた演奏である。