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ウィーン・フィルは、バーンスタインが指揮するときは、常に目の色を変えて、恐ろしいほどの底力を発揮した。とりわけドイツ・グラモフォンに録音した一連のベートーヴェンとマーラーは、どれもけた外れの名演ぞろいであり、ひとつとして聴き逃せない。
この「第9」も、改めて聴きなおすと大ショックを受けるほどの名演奏である。その特徴を一言で言えば、やはり彼の個性である「人間臭い」ということになるだろうか。
第1楽章冒頭から、響きのすみずみにまでバーンスタインの精神が宿っており、凛とした緊張感の張りつめた、すべてのディテールに感動せずにはいられない。前半の2楽章は、やや早めのテンポと弾力的なリズムがすばらしく、逆境に立ち向かう人間のたくましい意志を連想させる。遅めのテンポでたっぷりと歌う第3楽章は、下手な演奏だと退屈しかねないが、この演奏では文句なしに至福の時を約束してくれる。
第4楽章も最高におもしろく聴ける。不協和音が明滅するイントロダクションに続く低弦のレチタティーヴォの堂々たる恰幅(かっぷく)、これは他のどの演奏にもないすごみがあって、バーンスタインその人の肉声を聴くようだ。続く歓喜の主題が次々と異なる楽器に受け渡されていくとき、それは何と柔らかく優しく歌われることだろう。声楽が加わってからの熟達(じゅくたつ)のタクトさばきは見事の一語で、盛り上がり一辺倒ではない、この曲本来のメッセージである友愛の情がじんわりとおおらかに伝わってくる。人々に幸福感を与える見事な「第9」だ。
なお、このレコーディングはバーンスタインが心身ともに充実の絶頂にあった1979年9月。翌月にはベルリン・フィルとの一期一会のマーラー「第9」が控えていた。ライヴ録音会場はいつもの楽友協会大ホールではなく、国立歌劇場の方ということもあるのだろう、たとえばティンパニの音などウィーン・フィル独特のあの皮の張り具合が、大変リアルに録れているのもすばらしい。(林田直樹)
メディア掲載レビューほか
数多いバーンスタインの名盤を代表するディスクのひとつ。バーンスタインの気力が最も充実していた頃の録音。「第九」というテクストをこれ程までに生々しく,誠実に,そして感動的に表現しきったバーンスタインの才能に今更ながら驚きを禁じえない。
-- 内容(「CDジャーナル」データベースより)