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音楽の偉大さ、人間の偉大さを証明する、これはひとつの奇跡である。いったい何十回、この世紀の名演奏を飽きもせず繰り返し聴いて、肺腑(はいふ)をえぐられるような感動に打ちのめされ、大粒の涙を流したことだろう! どんな雄弁な言葉も、この偉大な演奏の前にはまったくの無力である。あらゆる言葉をつくしても言い足りない。生まれてきて良かった。そして、フルトヴェングラーのこの演奏に出会うことができて、本当に良かった。それ以外の何が言えようか。ただ一つだけ言えることは、この奇跡の記録を、いい加減な流し聴きでかけてはならないということだ。できれば、他のことは何もしないで、音楽のことだけを考えて、ぜひともスピーカーから流れてくる音に集中してほしい。
「運命」と「エグモント」序曲は、フルトヴェングラーが戦後初めて再びベルリンで指揮をした復帰コンサートの第3日目にあたる1947年5月27日の歴史的ライヴ録音。連合軍に破壊され尽くし、衣食住にもこと欠く廃墟のベルリンにあって、人々はこのコンサートの切符を買うために、大切にしていた靴や嗜好品さえも手放し、何日も行列に並んだという。舞台にフルトヴェングラーが現れると、人々は立ち上がって拍手し、狂気にかられたように大声で叫んだと伝えられる。
半世紀を経た今でも、噴火するマグマのように熱く、燃えに燃えたこの奇跡の演奏記録は生々しく、私たちの人生を変えてしまうほどの衝撃的な「力」を秘めている。まさにクラシック音楽すべての頂点に輝きわたるであろう、永遠不滅の名盤なのである。
弦楽合奏版「大フーガ」は1952年2月10日のライヴ。ベートーヴェン晩年の心境を象徴する、難解な哲学にも似た作品だ。ベートーヴェンの神秘的で力強い言葉が幾重にも折り重なっていくような不思議な迫力は、フルトヴェングラー以外の何者にも成しえない思索的な世界である。(林田直樹)
メディア掲載レビューほか
フルトヴェングラーのディスコグラフィーでも特に重要な1枚。戦後復帰コンサートの一晩から収録。第5交響曲がこの状況ならではの歓喜に満ちた演奏として有名だが,「エグモント」もすごい。実に重く,苦しく,こんな音楽は二度とできまい。
-- 内容(「CDジャーナル」データベースより)