フェラスは「カラヤンに潰された」とされるフランス人ヴァイオリニストらしいのだが、私はこの録音ではじめて彼を聴いた。グリュミオーやカントロフには及ばないが、演奏スタイル、特に音色にはフランコ=ベルギー楽派の刻印が確かにある。美音でありながらもそれをひけらかすことのない、端正な表情を持った彼の演奏スタイルは、しばしば過度な(妙な)情熱を持って弾かれがちなフランクとルクーのヴァイオリン・ソナタに実によくマッチしていると思う。
また、この録音で特筆すべきはマルセイユ音楽院の先生だったピエール・バルビゼのピアノ。バルビゼは、ほとんどノンペダルでこれらの曲を弾き通している。ノンペダルながらも決して雑になることがない上に、絶妙のリズム感に支えられた表現は極めて雄弁。ヴァイオリンとの呼吸も素晴らしい。単なる引き立て役の伴奏ピアノに陥ることが全くなく、ピアノが出るべき時には出て、引っ込むべき時にはちゃんと引っ込んでいる。むしろ、フェラスのヴァイオリンよりもバルビゼのピアノにこの録音の価値を感じる人も多いかもしれない。