大量の移民流入と東西統一により、様々な摩擦が起こり始めたドイツ。
行方不明になったポーランド移民の捜査に移民収容所が有る街ラッサウに男女の刑事が潜入するが、そこはネオナチによる移民、性的マイノリティ狩り、破壊が横行する無法地帯であった。
街は警察の無能、霊能者や現場視察に来た政府要人、そして遂に暴動を起こした移民達も加わって混迷を極めて行く…。
ファスビンダー映画に出演した俳優陣が多く参加されていると伺って観賞しました。
映画監督というよりはお騒がせ屋のシュリンゲンズィーフ監督によるとても酷いスケッチ映画。
凌辱、殺人、スカトロ、ナチ礼賛、反権力、移民差別等ともかくタブーとされている事全てを放り込んだ感覚で、ブラック・コメディとしても滑っているし、ともかく技術的な稚拙さも含めて正視に堪えない映画です。
が、強いて見所を上げますと、不真面目な映画であると一目で解る作りになっている事と上映時間が短い(79分)点でしょうか。
共同脚本・製作で後に監督業に進出しファスビンダーの後継者とも称されたオスカー・レーラーが参加(本編にもチョイ役出演)。
ネオ・ナチによる移民狩りの捜査の為に混乱の巷に身を投じた男女刑事にペーター・カーン(「ラ・パロマ」「自由の代償」)とマーギット・カルステンセン(「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」「シナのルーレット」「マルタ」「悪魔のやから」)。
晩年のオーソン・ウェルズ並に肥えたカーンが演じる滑稽かつ暴力的な刑事はともかく、ノーメイクでかつての美しさの片鱗すらかなぐり捨てたカルステンセンのホラーな顔がなによりも残酷でした。
カーン刑事と過去にヴィプケと言う女性を巡り一悶着有り、いつも拳銃の銃口を口に咥えたネオ・ナチの従軍神父(?)役で仕事を選ばない秀でた額のウド・キア(「ヨーロッパ」「シャドウ・オヴ・ヴァンパイヤ」「処女の生血」「悪魔のはらわた」「サスペリア」)。
彼は本映画でもいつもながらの可愛げの有るユーモアを醸し出しており、見ていてホッと致します。
ネオナチ総統のヒトラー風扮装のラッツを演じるDietrich Kuhlbrodtは検察官(担当は戦争下のナチの犯罪…)・法学者上がりの異色の人物で、シュリンゲンジーフ監督の100 Jahre Adolf Hitler - Die letzte Stunde im F'hrerbunkerではゲッペルスを演じていたらしい(ちなみにヒトラー役はウド・キア…)。
良くも悪くも音楽は印象的で、ピーター・ガンや007のテーマのパロディの様な音楽やウィーン少年合唱団出身のペーター・カーンがメル・ブルックス監督「プロデューサーズ」の挿入曲「Sprintime for Htler」を口ずさむシーン有り(もちろん酷い場面で)。
何度も流れる深いバリトンで歌われる主題歌も強制的に印象に残ります。
本作を観る位でしたら、ファスビンダーの過激派を主役にし、本作ともCASTが被るブラック・コメディ「第三世代(1979)」や、ファスビンダー亡き後に、彼に所縁が有ったCAST/STAFFが作ったナチと残党が南国の離島で現地人を虐待・搾取するクルト・ラープ監督の西独・フィリピン合作「Die Insel der blutigen Plantage(プリズンボンバー/地獄のサティアン。1982)」等を先に観れば良かったと思いました。
本DVDの画質は内容程酷くは有りませんがそれでも標準以下の物。
エンドロールに流れる文字が読み辛いレベルです。
チャプター選択、日本語字幕のON/OFF機能以外にもっともらしいプロダクション・ノートとCAST/STAFF紹介(でもシュリンゲンズィーフ監督とウド・キアーのみ)付きです。
ネタとしてとても酷い映画を集めて居られる方、やけっぱちなお気持ちで、この世に救い難い物が有る事を知りたい方以外はお薦めしません。