1946年製作公開。そして戦争映画の金字塔。ロッセリーニの日本公開作品はほとんどすべて観ているが、一本だけあげろと言われたら本作にする。内容は43年に連合軍がシチリアに上陸して、ドイツ軍を駆逐しながら北上する際に起きた各都市でのドラマを6編の短編にしたオムニバス形式の作品。各短編にタイトルは付記されていないが、便宜上
1. シチリア編
2. ナポリ編
3. ローマ編
4. フィレンツェ編
5. 修道院編
6. ポー河流域編
としておく。本作の特徴は既成の俳優を使わずに出演者には素人ばかりを起用して、完膚なきまでのドキュメンタリー・タッチで製作していること。さらに各物語には「湿った」ところが微塵もなくて、劇中の登場人物はもちろん観客も予想し得ない、身も蓋もなく突き放すようなエンディングが待ちかまえていること。たとえばシチリア編ではドイツ兵に狙撃された米軍の兵士の仇を討とうとして、案内役の娘がドイツ兵たちに襲いかかるがもちろんあっさりと返り討ちに遭う。事情を知らない米軍の本隊が現場に戻ってもドイツ兵たちはもういないし、米軍兵士も死んでいるし、娘もいないので(彼女は殺されて海に捨てられている)、米軍たちは元々反抗的であった娘が兵士を殺して逃げたと勘違いしたところで物語は突然終わる、という具合。
6編は何れも優れたものばかりであるが、特に6は痛切である。米軍兵士は捕虜になってからもジュネーヴ条約を順守するドイツ軍指揮官に厚遇され、お酒をふるまわれたりするが、イタリア人のパルチザン兵士はゲリラゆえにあっさり殺されるというコントラストが余りにも切ない。ラストシーンにこれらパルチザン兵士たちの処刑場面をもってきたことにより、本作の反戦メッセージはより痛烈になった。ただし本作には反戦を声高に叫ぶ人は出てこないし、そういったあざとい演出も皆無。それ故に反戦メッセージが強烈に浮かび上がってくるのだが、わが国の左翼系の演出家諸氏もこの辺をキチンと見習っては如何か?
さらに余談ではあるが3の冒頭で、ローマから撤退する本物のドイツ軍の部隊が映し出されるが、兵士たちの装備、そして兵員輸送用装甲車、ハーフトラック、四号戦車のバリエーション(名前忘れ)、75mm対戦車砲など、もちろんすべて本物である。元ミリタリーマニアとしてはヨダレが出る映像であります。
最後にこのDVDの画質は白いチリチリが万遍なく出ているし、白黒のコントラストもメリハリがなくてハッキリ言って良くありません。しかも米軍兵士の英語のセリフに対してイタリア語の字幕が画面下に時々出るので、画面右側の日本語字幕と重なると、字幕だらけで鬱陶しいです。より高画質の版をご存じの方がいらしたら、ご教授いただければ幸いです。