シューベルトの交響曲第5番と第8番『未完成』のカップリング盤といえば、あのブルーノ・ワルター指揮のコロンビア交響楽団(『未完成』のほうはニューヨーク・フィルハーモニック)の名盤があまりにも有名であるが、このレナード・バーンスタイン指揮による演奏もまた屈指の名盤と言える。
交響曲第8番『未完成』D.759はシューベルトの代表的作品として知らぬ人のない名曲だが、そのわりに「これが決定版!」と言えるほどのレコード(CD)は多くない。上記ブルーノ・ワルターの演奏はシューベルトの楽曲の甘美な叙情性をいっぱいにたたえた名演奏であるが、こちらのバーンスタイン盤では、叙情性プラス内省ないし郷愁といったシューベルト特有の情感が、ゆったりしたテンポと堅固な構成によって表現され、この曲のロマンティシズムを見事に表現し切っている。特に、第2楽章(終楽章)のコーダの部分、あの幾重にも響き合う「告別」のメロディーに込められた、胸に染みる切々たる情感の見事な表現は、この曲の代表的名演のひとつと呼ぶにふさわしい逸品である。
交響曲第5番D.485のほうは、ウィーン古典派とりわけモーツァルトの影響の色濃い、シューベルトとしては習作的な作品と言われるが、そのぶん、構成のまとまりのよさと古典的な味わいにプラスして、シューベルトらしいよどみないメロディーの流れが極めて魅力的な曲である。バーンスタインの演奏は、過度な表現に陥ることなく、抑制された淡白な表現で、この曲の古典的な構成の清楚な美しさを描き出している。こちらもまた、この曲の代表的名演のひとつと呼ぶにふさわしい。