すごいカップリングのＣＤですね。　この2曲の演奏ならとりあえずこの一枚を買っておけば他にはいらないだろうというくらいのものです。　ワルターの奏でる“田園”といえばもう何十年も昔からこの曲の代名詞的存在。　黒澤明といえば“七人の侍”というようなもので、あらためて何か言うも野暮なのですが、第一楽章の出だしはもとより、私はとりわけ第三楽章の、まるでそれぞれの楽器が色とりどりの花をさかせているかのような至福の五分間を聴いていつも歓喜に身をよじっています。

交響曲第二番のほうは、“運命”や“田園”のように、誰もが口ずさめるメロディーというものが無く、それだけにこの曲の真価を伝えるのはひとえに演奏者の腕にかかっていると思うのですが、ワルター盤の演奏は第一楽章の出だしからぐいぐいとリスナーを引っ張っていきます。　希望に燃えた若者が朝の道を駆けていくといった風情の中間部は、これぞまさしくベートーヴェンという感じがします。　後の“英雄”や“第九”の萌芽らしき旋律も出てきます。　フィナーレは本当に胸躍る力強さ＋爽やかさ。　第三、四楽章も基本的に同じ雰囲気の親しみやすい小曲ですが、特筆すべきは第二楽章。　まるでシューベルト？と思わせるかのようなロマンティシズム、それでいてその力強い造形力はまさしくベートーヴェンならではのものです。　“田園”の第三楽章もそうなのですが、ベートーヴェンの、さまざまな楽器の音色をよく生かしながら、実に重層的に音の大伽藍を組み立てていくオーケストレーションの妙技が、ワルターの演奏にかかるとあたかも目に見えるかのように伝わってきて、“そうか、これが交響曲の真髄なんだ！”と、思わず感嘆させられます。　とにかくまだお聴きになったことがない方には断然お薦めの一枚です。　これは見事な演奏ですよ。

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ウォッチャー

人類共有の至宝・ワルターの『田園』

2008年10月11日に日本でレビュー済み

ベートーヴェンの交響曲第6番『田園』は、ベートーヴェンの9曲の交響曲のうち、もっとものびやかで牧歌的な情緒をたたえた秀逸な作品として知られる。鋭角的なリスナーに緊張を強いるようなところがなく、心の安らぎが得られる作品である。
このブルーノ・ワルターの指揮するコロンビア交響楽団の『田園』は、数ある『田園』のレコード（ＣＤ）の中でも、もっともこの曲の特長にふさわしい歴史的名演である。ブルーノ・ワルターは20世紀を代表する巨匠のひとりで、戦前にはウィーン・フィルの音楽監督としてヨーロッパで活躍し、同オーケストラと録音した『田園』のレコード（モノラル・ＳＰ）も傑出した名演奏だったが、第二次大戦中にナチスの迫害を逃れてアメリカに移住し、一時ニューヨーク・フィルの音楽監督にも就任したが、晩年に至り、その比類のない才能を惜しんだＣＢＳのプロデューサー、ジョン・マックルーアによって、ワルターのためのスタジオ・レコーディング・オーケストラを組織して、ベートーヴェンやモーツァルトなどの作品の録音を精力的に行なった。それが、このＣＤのコロンビア交響楽団で、“コロンビア”の名称はＣＢＳの社名（コロンビア・ブロードキャスティング・システム）に由来する。
元来、ハリウッドやＣＢＳのスタジオ・ミュージシャンの“寄り合い所帯”でスタートしたコロンビア交響楽団は、その伝統的音楽性の高さという見地からは、ウィーンやベルリン、アムステルダム、あるいはニューヨーク、ボストン、クリーブランド等、長年の伝統に支えられたオーケストラとは、そのレベルにおいてまったく比較にならないはずなのだが、ブルーノ・ワルターの指揮によって録音された数々の作品を聴くと、驚異的なことに、その磨き抜かれた音楽性の高さは、伝統的なシンフォニー・オーケストラのそれに比べて一歩もひけをとらない。これは、オーケストラを指揮するブルーノ・ワルターの、音楽とオーケストラに対するたぐいまれな愛情、ジョン・マックルーアの組織力・統率力、そして何よりもワルターの指揮に従う各ミュージシャンのワルターに寄せる敬愛と献身の賜物の成果であろう。
とにかく、こうしてワルターの名演の数々が、ステレオ録音として遺されたことは音楽ファンにとっては最上の贈り物であり、この『田園』もふくめて、将来にわたって受け継がれるべき、人類共有の至宝・財産と言うべきものである。

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takechan202

カップリングが最高

2004年12月4日に日本でレビュー済み

ワルターの代表盤として真っ先に浮かぶのが「田園」ですが、それではワルターの演奏したベートーヴェンで最高のものは、というと第２番になるでしょうか。充実感、力強さ、美しさどれをとっても最高です。ワルターのベートーヴェンをどれか１枚、と言われたら、このカップリングを選びたいと思います。

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埼玉ﾍﾀｳﾏﾄﾗﾝﾍﾟｯﾀｰ

他の「田園」とは一線を画すサウンドの秘密

2020年1月7日に日本でレビュー済み

Amazonで購入

「田園」に関しては1977年のブロムシュテット(1927-現在)の指揮によるシュターツカペレ・ドレスデン(ドレスデン国立歌劇場管弦)の演奏を長年聴いてきた。

ベーム指揮ウィーンフィル、カラヤン指揮ベルリンフィル、フルトヴェングラー指揮ウィーンフィル、ワルター指揮フィラデルフィア管弦など有名どころの演奏も聴いてみたが心に響く演奏はなかった。

本アルバムの「田園」は1958年ワルター指揮コロンビア響の演奏である。

一般的に「田園」のアルバムジャケットというと、平凡なオケの演奏風景だったり、老大家となった指揮者の写真、昔の西洋絵画など、およそ面白味のないものが多いが、本アルバムの田園風景のなか逆光で捉えた２頭の力強い農耕馬と1人の農夫という斬新なデザインには目を見張るものがある。

録音は1958年と古いが、音質は2019年の今でも何ら遜色のないものである。

最近知ったことだが、コロンビア響は1950年代～1960年代にかけて米国コロンビア・レコードのレコード録音のために編成されたオケとのことである。

その実体はレコーディングの度に臨時編成されたり、契約の都合で俗にいう覆面オケになったりしていたようだ。ことに当時、革命的新技術だったステレオ録音への流れに乗り、米国コロンビア・レコードの名プロデューサーのジョン・マックルーア(1929-2015)が、老齢により半ば引退状態にあったワルターに「特別編成のオケを用意するので過去にモノラル録音した作品をステレオでもう一度録音したらどうか」と提案。

ワルター(1876-1962)はこの提案に乗っかり、当時全盛期を迎えたハリウッド映画の映画音楽演奏のために西海岸に数多く集結していた有能なフリーランス奏者でのオケ編成に人選の段階から関与。1957年よりステレオ録音が始まった。実にワルター81歳のときである。この録音は1961年(ワルターが亡くなる前年)まで続いた。本アルバムの「田園」もこのとき録音された。

本アルバムの「田園」のサウンドは他のアルバムのものとは一線を画すものである。具体的に言うと、一聴してそれと分かる作為のない、愉悦感・押し出し感あふれる豊穣なサウンドである。これらは映画を盛り上げる音楽演奏を目的に集結した奏者でのオケ編成と、ワルターがその人選から関与した成果と考える。

第6番には「田園」、各楽章には、
・第1楽章　田舎に到着して起こる愉快な感情(9:49)
・第2楽章　小川のほとり(11:52)
・第3楽章　田舎の人々の楽しい集い(5:41)
・第4楽章　雷雨、嵐(3:41)
・第5楽章　羊飼いの歌 - 嵐の後の喜びと感謝(9:40)

といった分かりやすい標題をベートーヴェン自身が付けており、これだけでも平和な田園の風景やストーリーといったものが思い描ける。

本アルバムの「田園」ではコロンビア響の豊穣なサウンドとの相乗効果により、これら風景やストーリーが強く迫ってくる。特に第5楽章の序盤と中盤終盤とで大きな盛り上がりをみせる部分には感動で心が打ち震えてしまい、涙なくして聴くことが出来ない。

これらの部分は1986年、モデルチェンジを迎えた三菱の最高級車デボネアVのテレビCMにも使われた。そのときの映像は、
・コンサートホールでオケを指揮する井上道義(1946-現在。指揮者。父親はアメリカ人)の映像
・天に向かって屹立する急峻な山々を背景として、羊飼いがいつ現れても不思議ではないような高原の道路を走るデボネアVの映像

の２つの映像を効果的に切り替えながら構成されていた。このときのデボネアVの標題は「FFニュークラシック」。搭載エンジンは嵐を連想させる「サイクロンV6」。30秒程のCMだったが心に残るCMだった。このCMを見て、曲名や作曲者名を調べて「田園」を聴き始めた人も多いのではないだろうか。このCMは今でも「1986 デボネア」等でネットをググればYouTubeで視聴できる。

「田園」は1808年にウィーン郊外のハイリゲンシュタットで作曲された。時代はナポレオン(1769-1821)が絶えず戦争をしていた頃である。一方、ナポレオンと同年代のベートーヴェン(1770-1827)には音楽家として致命的な病である難聴が進行していた。しかし(だからこそ)ベートーヴェンの創作意欲は高く、来る日も来る日もハイリゲンシュタットの森を歩きながら、新しい音楽の構想を練っていたという。

難聴は進行していたが創作意欲は高く、戦争の絶えない時代に平和な風景やストーリーを思い描いたベートーヴェン。私の勝手な想像だがベートーヴェンは本アルバムの「田園」のような作為のない、愉悦感・押し出し感あふれる豊穣なサウンドで「田園」が演奏されることを思い描いたのではないだろうか。

～私はﾚﾋﾞｭｰ内容をｱｯﾌﾟした後も随時更新して内容を充実させています～

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ベートーヴェン : 交響曲第2番、第6番「田園」

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