G・エヴァンスは、モダン・ジャズ史上最重要の編曲家の一人であるが、個人としてのキャリアには必ずしも恵まれていない。60〜70年代には、新たな要素や楽器をとり入れつつ、非‐スウィング的、反‐クライマックス的な演奏を続け、保守的なジャズ・ファンには評判が悪かったようだ。
彼は、最晩年、NYのS・ベイジルでの毎月曜のライヴで一種のピークに達する。本作は、80年、NYのP・シアターでのライヴ。なんといっても注目されるのは、ギルの愛弟子の一人、菊地雅章によるプロデュース作品であり、当然、synで参加していること。ギルにとって重要だった人物というのは、S・レイシー、M・デイヴィス、そして菊地らではないか。14人編成で、tsとgは入っていない。
S・ベイジルでのライヴ盤では、ギルの音楽の先鋭性が、しかし明快な形で伝えられている。だが、本作は、まだ、一部の人からわかりにくいといわれるであろうギル独特の世界だ。無論、ファンク・ナンバーもあるしブルーズもある。ただ、大半では、非常に淡々とし抑制された、一種の抽象画のような世界が続く。フリー的な部分もあるし、ちょっとECMなどを思わせるところもある。
これはありきたりな言い方だが、ギルのこうした世界というのは、その後のダブ、電子音楽、音響系といったものにむしろ近いところがある。だから、60〜70年代のギルというのは、これから「発見」されていくのではないか。ついでにいうと、いま私の手元にある日本盤では、作曲者のクレディットが落ちていて困る。本当は、素人リスナーとしてはソロ・オーダーも欲しいのだが、これは仕方がないか。