ABQの名盤の1つだ。シューベルトが「ウィーンの抒情詩人」という位置付けを長くされていたのを、20世紀末頃から多くの革新的な演奏家たちが打破していたが、ここに聴く音楽も同様。まずカルテットのメンバー4人が対等の立場で立体的に演奏するスタイルが確立されている。
《死と乙女》は全篇遅めのテンポで、響きが時々鋭角的になることも辞さず、曲の内容を抉り出すような厳しさが凄い。テンポは曲想に従って自由に変化を見せながら、ABQらしく格調の高さは全く損なわれない。響きのバランスは徹底的に練り込まれていて、美しさも保たれてスマートな運びようも見事だ。
《ロザムンデ》は曲頭はテンポが速めだが、緩急自在なさばきようで心を奪われる。デリケートな旋律美を大切にしながらも、低音のしっかりした響きは音楽が過度に甘美すぎないように引き締めている。それでも全篇にわたり溢れるような歌心は素晴らしい。特に聴きどころの第2楽章は美しすぎるくらいだ。
新しい時代のロマンが見事に息づいている、このシューベルトによる弦楽四重奏曲の傑作2曲の名演奏だ。録音も優秀。