現代最高のカリスマ・ピアニストによる近代コンチェルト集。1997年10月、カナダ・モントリオール市、サン=トゥスタシュ教会にてセッション録音。本盤は2007年に廉価盤として再発されたもので、帯には「24bit最新リマスター」の文字があり、EMI原盤とは確かに音が違う(後述)。
アルゲリッチはバロックから現代曲まで幅広いレパートリーを持つピアニストだが、同一曲の再録を好まないタイプでもある。極度の緊張感のもとに燃焼し尽くす、という彼女の実演に触れれば、それも無理からぬことかと思う。
そのアルゲリッチが(今のところ)セッション録音で再録しているコンチェルトの代表作が、ショパンの1番とここに収められたプロコフィエフ3番。どちらも最初の録音が60年代で指揮者がアバド、二度目はそれから三十年後で、指揮者はデュトワという組み合わせ。彼女の経歴を知る人にとって、新旧音源の比較は、いろいろ興味が尽きないところだろう。
結論から書いてしまうと、本作でのアルゲリッチは、どの楽曲においても「協奏曲」という字面を体現するかのような姿勢で、ピアノと指揮者とオケに向き合っている。アバド盤では「競奏」の文字の方が似つかわしいのでは、と思えるような演奏だった。本盤での穏やかな調和を好む方も多いはずだが、個人的にはやや物足りなく感じることも事実。とはいえ、もちろんアルゲリッチ特有のテンション感が衰えるはずもなく、これは聴き手が楽曲と奏者に何を求めるか、という問題だろう。
ところで本作は、輸入盤で入手できるEMI原盤とは多くの点で差異がある。先のマスタリングもそうだが、ジャケット意匠も、ブックレットの解説もまったく別のもの(他のレビュアー氏が記している「娘アニーデュトワによる解説」の翻訳は本盤では割愛された)。編集盤ならともかく、同一音源を別の形に加工して発売するのはどうかと思う。「最新」を謳うマスタリングも、私の再生環境での比較では音質向上と断じ難いものだった。