1997年収録の『地獄八景亡者戯』で、2005年に早逝した吉朝としては、亡くなる8年前の録音ということになる。
この噺は、何が完成型かわからない、不思議な大ネタではあるけれど、このCDを聴いていると、少なくとも「吉朝の地獄八景」としては、まだ未完成だなあという印象。その意味で、ちょっと厳しいが減点して★4個。
吉朝自身、それがわからなかったはずはないが、CDの発売にあたって、1枚目は遊び心満載の『地獄八景』にして、2枚目以降で、定番の古典をきっちり演じたものを出したというのが、いかにもシャイな吉朝らしいなあ、とあらためてしみじみ思う。
後半、閻魔大王に「一芸ある者は極楽へ行かせてやる」と言われて、名乗り出た男(ほとんど吉朝自身だが)が、噺家が舞台に出るところの形態模写をやる件りがあるけど、そこは音を聴くだけではちょっと辛いね。師匠の米朝、枝雀、春團治と、いちいち袖に引っ込んでは、それぞれの出囃子まで鳴らして、座布団に座るまでの真似をするのだが、客席も爆笑だし、ぜひとも映像が見たい!
(それにしても、いったん高座に上がった噺家が、袖に戻って出直すというのは、芸としてやっているにしても前代未聞ではなかろうか。吉朝の洒落っ気に拍手。)
ここに書くべきことではないが、吉朝の『地獄八景』のDVDが出るのはほとんど絶望的だろうから、あえて情報として書いておくと、W資料館のライブラリーに、このCDとは別の高座だけれど、吉朝の『地獄八景』のビデオがあって、形態模写の件りも見られる。やっぱり映像で見ると爆笑ですよ。