ハリー・ディーン・スタントン演じる主人公・トラヴィスは、
飛行機に搭乗することを怖がります。或いは、電車の果ての
見えないレール、飛行機が飛んでいても地上に貼り付いている
影、ネオン・サインの途切れることなく地上を踏みしめる脚に
釘付けになります。
トラヴィスは、関係が破綻して別れた妻・ジェーンと、初めは
『食料品店に行くだけでも冒険旅行みたいだった』と語るような
非日常の世界を経験します。しかし、彼女に対する愛が強すぎる
ことから次第に関係が破綻し、取り返しの付かない破滅的な事態
にまで進行します。認識に落とし込むのはまだ先になるのですが、
彼はこの時、愛というものがこの世界において実現不能だと
悟ったと思われます。だからこそ途切れることが怖いのです。
飛んでいった先に、理想郷などありはしないことを知って
しまったから。
丁度、高速道路の上で、狂人が安全地帯は抹殺された、安楽の
地だと信じた所には安楽でないものが待っている、と云ったのと
同じ認識をトラヴィスも共有しているのです。だからこそ彼は
狂人にシンパシーを感じたのです。