これまで三文オペラに関しては名前と断片的な知識しかもたず、全曲を聴いた事は無かったですが、一度知ったが最後どっぷりハマる人と、好きになれない人に別れるかもしれません。音遣い及び歌い方に癖が強いため、誰にでもすぐ好かれるというよりは、聞けば聞くほど味が出るというところでしょう。2曲目のモリタート(マック・ザ・ナイフ)に象徴されるように、基本的にメロディメーカーですが、そこにウイットに富んだ音遣いの伴奏が加わり、大変ユニークです(ユニークすぎる?)。Zuhdlterballadeという曲も涙が出そうになるほど美しい…ただし、ロマン派のオペラのような、抒情にどっぷりと浸かってしまうことはありません。
初演のときにプロの歌手が1人も含まれていなかったことが象徴するように、ベルカント唱法でない(と断言していいのか分かりませんが)ことは一般的なオペラと一線を画するものといえます。どちらかといえば場末のミュージカルの雰囲気を持っていますが、アメリカ的色彩ではないので新鮮、という表現も可能でしょう。
「新クルト・ヴァイル版」とあるのは、原曲に、作曲者が意図して作曲していたらしい「つなぎ」のための6曲を加えたものを使用しているためで、今後はこちらの版が一般的になっていくのだと思います。演奏のアンサンブルモデルンは、現代音楽の旗手として著名な団体です。作曲家の意図を余すところ無く伝えているのではないでしょうか。
彼にしかない匂いや色が豊かに備わっている、という意味では、クルトワイルは歴史に残る作曲家です。