唯一の長編「やぶにらみの暴君」(改作「王と鳥」)で世界アニメ史に残るポール・グリモーの短編集というのがメイン・タイトルになっていますが、むしろ彼の全キャリアを総括した一本の映画と言えます。実写による処女作から、代表作「避雷針泥棒」や前述の長編への布石となる「小さな兵士」、さらに本作品のための新作まで、彼のフィルモグラフィーを俯瞰することができます。
しかし、短編をただ並べたというのでなく、実在の製作スタジオを舞台として、本人が実写で出演し(実写部分はジャック・ドゥミ監督)、短編に登場するキャラクターたち(実写にアニメが合成される)と共に自身の作品を振り返る構成となっています。原題の「ターニング・テーブル」とは、それらの短編を次々に映し出す映画の編集装置のことなのです。
グリモーはジャック・タチ監督に乞われて「ぼくの叔父さん」に俳優として出演した経験もありますが、本作の中では、コマ撮りを応用してアニメーションの原理を易しく解説したり、未完成作品について戦争で製作が途切れてしまったという裏話を寂しげに語ったりしています。偉大なアニメの先駆者というより、子供を慈しむ優しい人柄が覗えます。
羊飼い娘の声を担当した女優アヌーク・エーメの出演というサービスも忘れていません。その背景の壁には「やぶにらみの暴君」の日本版ポスターが貼られていて、その精神を受け継ぐ日本アニメとの関連も示唆されます。
「王と鳥」に相通じる、静かながら確固たる雰囲気が全編に流れていますが、単なるアニメ作家として片付けることの出来ない、芸術家としての豊かさ、達観した境地を感じます。
映画の初め、グリモーはフィルム缶を抱えた熊、スタジオの外は雪でしたが、映画の最後では彼はスケッチブックを携えて、陽気の中を歩いていきます。果たしてこれは何を意味するのでしょう?そんな寓意に込められた思いを、あれこれ考えさせてもくれるのです。