吸血鬼映画を離れたジャン・ローラン監督の荒廃した近未来SF風味のある異色ホラー(1980年製作)。
真夜中の郊外を彷徨い歩く主人公エリザベート(ブリジット・ラーエ)が、青年ロベールに車で拾われる。
彼女は記憶障害があるらしく、問いかけに要領を得ない。取り敢えず、彼の自宅に連れて来る。
早くも濃厚なセックス・シーンが展開され、ラーエの凄まじい肉体美が披露される。
裸体エロ芸術家ローラン監督による序盤から、快調な滑り出しである。
しかし、ロベール(ヴィンセント・ガルデーレ)が、仕事に行った隙に追跡者に捕まり、
近代的高層建築の施設に連れ戻され、軟禁されてしまう。
どうやら、10分前の記憶が無くなる奇病の患者達が、収容された如何わしい施設であった。
<丸で「メメント」(2000)と同じ設定の病気であり、本作は20年前という先駆け作である。恐るべしローラン。>
収容された男女の患者達の尋常でない様子が描かれている。
ここでも脱ぎ捲る女優陣、辺り狭しとファック・シーンが炸裂する。
ピンクのお乳首とふさふさ陰毛、更に男性器迄もがボカシ無しで映し出されるのだ(笑)。
然も脳障害のせいで先程の出来事も忘れ、虚ろな目でふらふら歩き、
理性まで犯されるとその苦しみで殺人をも犯すのである。病的な暴走は止まる術を知らない。
謎の奇病の原因と背後に潜む組織の謎を探るという話であるが、主人公自体が患者なので、
終始ボーとした感じであり、ロベールが再登場するまで、終始マッタリ感の漂う展開が続く。
ゴア・シーンこそ皆無に近いが、裏切られたと勘違いして自殺した女性の両目に、
鋏が突き刺さった儘のグロ死体、患者とセックスする施設警備員をハンマーで急襲し、
叩き殺すオヤジ(患者)、性行為の最中に突如錯乱を起こし、相手を絞め殺す男(患者)等、
グロテスクな描写や尋常でない殺人事件が続々登場。
全編に冷ややかな空気が漂う異形の苦悩を描き、切なさ、悲しさに包まれたローランの世界を堪能出来る。
ある意味ローランの作風としては、正統色と言える内容なのではないか。
単なる官能と耽美を描いた映画とは異なる一貫した物語性が、特徴的である。
ある報われない愛の悲劇を描いた妖しい魅力を秘めた秀作だ。勿論、ローラン・ファン、マニア向けではある。
主人公を熱演したブリジット・ラーエ は、1976年から1980年に掛けて活躍したフランスのポルノ女優であり、
人気の頂点にあった彼女は、ハードコアポルノを引退する決意をした年に出演したのが、本作である。
ローラン作では「殺戮謝肉祭/屍肉の晩餐」(78)や、
「美女のうごめき/鮮血に染まる死霊の館 」(79)の脇役を経て堂々の主演を務める。
尚、ジェス・フランコ監督作「フェイスレス 」(87)では、ヘルムート・バーガーと共に悪徳医師夫妻を演じ、
狡猾な悪女を見事怪演、相手役のキャロライン・マンローを完全に凌駕する強烈な存在感を発揮している。