6曲収録、30分足らずの小アルバム。彼女の5作目のアルバムになる。
お手製のジャケットイラストやセルフポートレートの写真といった
小道具に示されるように、大人の女性のプライベートな部屋に招かれた
イメージの好アルバムである。
全般にオンマイクで収録された息の音を積極的に取り込んだボーカルは、
耳元でささやかれるような官能的な響きがある。また、「ちびまるこちゃん」にも
やや似た独特の特徴がある彼女の発声は、これまでのアルバムよるずっと
前面に出され、商業的な洗練と流行を作り出そうとする流れの対極にあるように映る。
「もう自分のやりたいようにやるのが一番」というふっきれた想いが、
このアルバムに強いインパクトを与えているように感じられる。
各曲は、いずれ劣らぬ高い完成度をもつが、独断で2曲を選ぶ。
まず、60年代のジャズのような伴奏で歌われる「月とヴァイオリン」。
「あなたといる時の自分がただ嫌いだった」と語る。「癒し系シンガー」とも
いわれる彼女だが、装いながら、その自分を冷徹に見つめる視点に、
繊細な感性と知的な強さを感じる。
そして、「泣いている人」。詞は、小春日和の洗濯物の映像に官能的な
息づかいが追憶のように重ねられる。同名のシングルより抑えられた曲調だが、
洗濯物の明るく清潔な映像にオーバラップして語られる「身体中に染み込んだ
あなたの呼吸」などのフラッシュバックが、かえって、ひどく艶めかしい。
これまで洗練された楽曲を創り出してきた平岩英子だが、ここで転機を
迎えたのかもしれない。最新アルバムなのに、まるでオーディション・
テープみたい。なぜか、どんどん「わがままで勝手になってきた」
平岩英子に大いにエールを送りたい。