参加メンバーと収録曲は以下の通り。録音年月日は1984年8月20日と27日。
Gil Evans (p, el-p), Pete Levin (synth),
George Adams (ts), Chris Hunter (as), Howard Johnson (tuba, b-cl, bs),
Miles Evans (tp), Shunzo Ohno (tp), Marvin "Hannibal" Peterson (tp), Lew Soloff (tp),
Tom "Bones" Malone (tb),
Mark Egan (el-b), Hiram Bullock (el-g),
Adam Nussbaum (ds), Mino Cinelu (perc)
1. Parabola (Alan Shorter)
2. Voodoo Chile (Jimi Hendrix)
3. Orange Was the Color of Her Dress, Then Silk Blue (Charles Mingus)
4. Prince of Darkness (Wayne Shorter)
5. London (Gil Evans)
6. Blues in "C" [John's Memory/Cheryl/Bird Feathers/Relaxin' at Camarillo] (Charlie Parker)
7. Goodbye Pork Pie Hat (Charles Mingus)
8. Up From the Skies (Jimi Hendrix)
何と言っても曲目の豪華さと演奏の充実ぶりに目を見張ります。2曲目、毎度おなじみジミヘンの Voodoo Chile はのっけからハワード・ジョンソンのチューバソロでスタート。なんとチューバですよチューバ。あのでかい重たい低音楽器からこれでもかとばかりにハイノートを連発して、聴いているこっちも息苦しくなるような、一種うめき声にも似たサウンドでアドリブを繰り広げていきます。音程はかなりあやしいけれど、通常のチューバの守備範囲を逸脱した高音域で吹いているのだからそれもむべなるかな。そこに絡むハイラム・ブロックのギターがまたナイス。コーラス系のエフェクトをかけすぎて、音色にエッジが立っていないのが残念ですが、フレーズはワイルドにロックしています。その両者を煽りたてる管楽器群とリズムセクション。かっこいいです。
ミンガス親分の2曲もしびれます。特に Orange Was...。親分のバンドで直々にその薫陶を受けたジョージ・アダムスが、彼にしては少々おとなし目のテナーソロを展開。この適度に抑制されたアダムス節が実にヨイ。ブチ切れまくりのフリーキートーンもいいけれど、ここでの彼のプレイはある種の屈折した抒情美に溢れていて、たまらない快感です。故レスター・ヤングへの鎮魂曲、かの有名な Goodbye... の方ではクリス・ハンターのアルトが大活躍。曲想から考えればちょっと吹き過ぎではないかと思うほど吹きまくっていますが嫌味ではありません。この演奏はギルのオーケストラとしては意外なほどに普通のアレンジで、そこがかえって興味深いかと。
ウェイン・ショーターがマイルスに提供した Prince of Darkness をビッグバンド編成で演奏してくれるとはうれしい限り。ルー・ソロフのトランペットソロがカッコいい。原曲におけるマイルスのソロではほとんど聴けないハイノートをヒットしまくっています。
この1980年代中頃のギルのオーケストラは、アレンジも演奏もややユルめだなという印象を受けます。同時期の穐吉敏子のオーケストラの演奏はまさに一糸乱れぬ鉄壁のアンサンブルを誇り、一方ギルの方はというと、一糸どころか二糸も三糸も乱れまくったユルユルのアンサンブルという感じ。しかし、ギルにはギルの流儀というものがあり、このアンサンブルのユルさもそこから不可避的に生じるもののようです。ソロイストのソロの順番も演奏中に自然発生的に決まるというほど、個々の演奏家に自由が与えられていたらしく(本当にそうだったかどうかは知りませんが)。月曜日ごとの演奏行為自体がある種の実験の場だったのではないでしょうか。しかも比較的小回りの効くスモールコンボではなく、一歩間違えれば演奏がバラバラに崩壊してしまうリスクの大きいオーケストラだけに、腕に覚えのあるジャズミュージシャンにとっては、重厚なバンドサウンドの構築と即興演奏の醍醐味とを同時にしかも十二分に味わえる、非常にスリリングで刺激的な空間だったのではないでしょうか(勝手な妄想に過ぎませんが)。
蛇足ながら最期に。本作から6年前にリリースされた LIVE AT THE ROYAL FESTIVAL HALL LONDON 1978 ならびにその続編 THE REST OF GIL EVANS LIVE AT THE ROYAL FESTIVAL HALL LONDON 1978 は依然としてCD化される気配は無さそうで、まことに悲しい限りです。