三味線の米国ドサ回りでジェームス・ディーンと出会い役者を志したという勝新。
すぐには雷蔵、若尾文子、山本富士子のようなスターにはなれなかったそうですが、どう見たって悪人です。市川雷蔵の素晴らしい演技はここで何作か楽しませてもらいましたが、この時代の勝新は今作が初めてです。この映画では不器用で自分の世界観の中にこもっている舞踊家という役柄です。
農地改革によって二足三文で小作に土地を与え、その元小作に金を借りて蘭の栽培をしている未亡人を演ずるは杉村春子。終盤の宴席に於いて、お酌をしながらの捨て台詞はパンチが効いている。その時代の世相を表し、家族みんなが別の方向を向いているようですが、山本富士子演ずる長女が女流舞踊家を目指した合理性もなどもさりげなく描かれています。やっぱり若尾文子のスター性が光りますね。ベテランの風格と色気が乗った六十年代よりも、溌剌とした五十年代が私は好きです。
序盤から川崎敬三演ずる周作が不憫だなと思って見てたのですが、近いところに幸せが落ちていたという演出もいいですね。唖を演じた野添ひとみがヨーロッパの大道芸人が演ずるピエロのように演出されている。後年の小栗康平監督”眠る男”での小日向文世もそうでしたが、このような演出は気持ちが良いです。人と人の繋がりを描いた良作です。