曲目からはフランス名旋律集、共演がオルフェウス室内管ということで期待したが、やはり、このサックスの音色と一本調子な演奏には、疲れてしまった。
有名曲の旋律だけをソロで吹くマルサリスの音は、明るくきれいだが深みはなく、強弱の幅もせまく単調で大人しい。アルトを吹いた時には、そういった軽く表面的な音楽作りが特に目立ってしまい、イベールなどハールらの演奏と比べると全く別の曲のようにつまらなく、意味のない音の羅列になってしまっている。録音は明確で一点の曇りもない素晴らしいものだが、逆に左スピーカからのはっきりし過ぎるソロの近接音は人工的に感じられ、耳に飽きがきてしまった。
これでは、クラシックファンには受け入れられないのもやむを得ない。サクソフォーン協奏曲(イベール)は、ミュールの演奏が手に入らなければ、須川、ハール、輸入盤でルソーといった演奏で聴くべきだろう。
しかし、このアルバムの中心であるミヨー作曲の”世界の創造”を中心としたブラジルやジャズの要素の強い曲(69分中35分間はミヨー作品)は、まさにベストの演奏だ。特に、サックス曲中最も有名な曲と言われている、”スカラムーシュ”の管弦楽伴奏盤は、他にいいCDもないだけに、極めて貴重だ。これらの曲はサックスがオケの一員となって目立ちすぎず、オルフェウス室内管が中心となって演奏しているので、とても聴きやすく録音も美しい。ミヨーの楽しさ・おもしろさを堪能できるとてもいい選曲で、何度でも聴きたくなる演奏。これらだけをプログラムして、聴くことをお勧めする。
その他では、唯一ドビュッシーの”子供の領分”からの”ゴリウォーグのケーキウォーク”が、サックスで吹くとジャズ音楽のように感じられ、新しい発見だった。