86年作。トランスレコード代表、北村昌士(フールズメイト誌の初代編集長でもある)率いるYBO2の1stアルバム。北村、Null、吉田達也の3人編成。キングクリムゾンへの愛・憧れを抱き、それをプログレとは違う場所から目指すようなアプローチ。ポストパンク・ニューウェーブといった時代を経てきたがゆえの過激なアンチ・プロフェッショナル性。古き良き60年代・70年代ロックへの不器用な愛情・憧れ・コンプレックス。EINSTURZENDE NEUBAUTEN、SPK、whitehouse、TEST DEPT等のノイズ・アバンギャルド・元祖インダストリアルから受けた激しい刺激。SWANS、ソニックユース等からの多大な影響。BLACK FLAG辺りのハードコア色(スピードではなくヘヴィネス)。その他、This Heat、DNA等の影響。ジャックス、JAシーザー等、日本の古いダークなロックの要素。それら様々な要素をごった煮にしたようなノイジーで混沌とした音楽。80年代のダークでアングラなロックっぽい音に見せかけて、本人達が本当に愛するのはクリムゾンだったり、あるいは、ブルーチアーやMC5など60年代末のヘヴィでサイケデリックな音ではないかと思われ、その辺りがこのバンドの独特な佇まいに繋がっている気がする。北村氏のいろいろ紙一重なカリスマ性と、踏ん張り支える吉田氏(Ruinsや高円寺百景でも活躍する強力な凄腕ドラマー)。アカデミックで理知的ながらも野蛮で凶暴、どこか漂う文学的な美・影、一歩間違えば自己満足やハッタリ・でたらめに堕しかねない所をどうにか踏みとどまるようなギリギリ感。代表曲を多く含む傑作!
「AMERIKA」は重い杭を打ち込むようなベース・ドラム、ノイジーに這いずるギター、60・70年代の亡霊を呼び覚ますメロトロンの異形の美、呪いのようにうめき叫ぶボーカル、脅迫的な反復、凄まじい圧迫感。歌詞は主にサイモン&ガーファンクルの名曲「Scarborough Fair/Canticle」の引用。崩れ落ちていくような中盤では、サイモン&ガーファンクルの「America」の歌詞の断片も出てくる。他にも何かいろいろ言ってるが、聞き取りにくくてよく分からん。「太陽の皇子」収録のこの曲のextended long playingバージョンだと「The Sound Of Silence」の歌詞の一部も聞こえるが、このバージョンで使われてるかは不明。一見サイモン&ガーファンクルへの冒涜に思えるが、そうではなく、かつて彼らがこれらの曲で歌ったような孤独・疎外感・虚無感といったものが、現代では取り返しのつかないほど大きく病んで狂気にまで到りつつあることを表現したいのだろう。「猟奇歌」は血生臭く病的・耽美的。五七五七七の短歌風の日本語詞で怨念・狂気漂う内容を歌う和風ホラーな曲。後半は怪しいサウンドコラージュが割り込む。「BOYS OF BEDLAM」前半は葬式めいた暗さ。メロトロンの古ぼけ色褪せたような哀愁の音色、陰鬱なギター、悲しげな歌声。後半はそのメロディを使って攻撃的に走り出す。スリリング!「TO BE(帝国の逆襲)」は衝動的に駆け抜ける。ステッペンウルフの「Born To Be Wild」の歌詞に勝手に手を加えた感じの英語詞と、お経めいた響きの日本語詞とを重ね、叫ぶ(しかも、なぜかメロディは少しキリングジョークの「The Wait」っぽい)。「HEAVY WATERS」は熱病にうなされるような重苦しさと、どこか虚ろな表情。中盤、狂気が加速し叩き壊すようなグチャグチャなインスト部へ。「URAL」は刺々しくスピード感ある曲調、警鐘・啓示のように響き、吐き出し、訴えかけるボーカル。胸に突き刺さるようなカッコよさがある。「僕の声が聞こえるか、風と海と砂に還る、唇おしあてて血塗れの裂けた世界から言葉が落ちる」というフレーズが妙に気に入って聞きまくった、大好きな曲です。曲の全体像は全くの別物だが、パーツだけ見ると意外にも少しU2の「I Will Follow」っぽかったりする。